問題となったのは、「7-2」と巨人5点リードの8回表に飛び出たプレー。この回巨人は8点目を奪いなおも1死一、二塁のチャンスを迎えると、ここでダブルスチールを敢行し1死二、三塁に。球界には大差でリードしているチームは試合後半のバントや盗塁を慎むべきという不文律があるが、お構いなしとばかりに次の9点目を狙いにいった。
同戦でテレビ解説を務めた元ヤクルトの笘篠賢治氏が「この展開の中で重盗は非常に(疑問)」、「巨人はあまりそういったところでヤクルトに刺激を与えない方がいい」と苦言を呈し、ネット上でも賛否両論となったこの重盗。一方、一部では「報復死球が無かったのは幸いだった」、「これで報復があったらもっと騒ぎになっただろうな」といったコメントも見られた。
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今回のように不文律が破られた場合、破った側のチームの選手が報復死球を受けるケースは少なくない。また、過去には報復死球がきっかけで乱闘にまで発展した試合もある。
2007年4月19日、神宮球場で行われたヤクルト対横浜(現DeNA)の一戦。同戦は横浜が初回にいきなり6点を奪うと、その後6回までに4点を追加し計10得点。一方のヤクルトは6回まで無得点と横浜が圧倒的に優位の状況で試合が進んだ。
事件が起こったのは、「10-0」と横浜10点リードのまま迎えた7回表。この回横浜は1点を追加しなおも2死一塁の状況で、一塁ランナーの石川雄洋が二盗を敢行。すると、捕手を務めていたヤクルト選手兼任監督・古田敦也は「何走っとんねんコラ!」と激怒。さらに、マウンドの遠藤政隆も同様の思いだったのか、打席の内川聖一の背中に直球を直撃させた。
明らかな報復行為に球場がどよめく中、内川は痛みに悶絶しながらも一塁へ。しかし、ヤクルト側の怒りは収まらなかったのか、続く村田修一にも危険な球を投じた。内川には直球をぶつけたが、村田にはすっぽ抜けたカーブのような球を頭部に直撃させた。
すると、横浜側も堪忍袋の緒が切れたのか、ベンチから選手・コーチが飛び出しマウンド上の遠藤の元へ。これを見たヤクルト側の選手・コーチもマウンドに殺到し、両チームは押し合いへし合いの乱闘に発展した。
しばらくして乱闘が沈静化した後、審判団は遠藤に危険球退場を宣告。しかし、古田監督は村田への死球が避けられる球だったとして、審判に「お前常識持ってんのか?」、「何でお前らに敬語使わなアカンのや!」と言いたい放題。これらの発言が侮辱行為と判断され、自身も退場を宣告される羽目になってしまった。
試合はその後「14-1」で横浜が大勝したが、古田監督は試合後も「危険球は納得がいかない。村田が頭を下げなければ当たらない球だった」と怒り心頭。また、同戦は古田監督にとって通算2000試合目という記念すべきゲームだったが、「2000試合も出てるが、その中でワーストの試合になった」と現役生活で最低の試合だと口にしてもいる。
“大差で盗塁してはいけない”をはじめとした不文律は、劣勢に追い込まれた対戦相手に敬意を表するため、そして大勢が決した試合でいたずらに記録が作られるのを防ぐために形成されてきたとされている。こうした概念があるため、破った場合は相手チームに侮辱行為と捉えられやすく、その後の報復行為も招きやすくなっていると思われる。
今回巨人に不文律を破られたヤクルトは、その後特に報復死球などのアクションを起こしてはいない。球場外では物議を醸したが、球場内で大きな騒ぎに発展しなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
文 / 柴田雅人