初回、この日最初の打席では、ストレートをセンターにはじき返しチーム初安打を記録。その後、打線が安打を重ね先制のホームを踏んだ。今季初となる2番起用に応えた形となった。
続く見せ場は、7回の第4打席。内側に入った145kmの直球を捕らえると、打球は右方向へ高々と上がり、そのまま右中間スタンドへ。「手ごたえは十分だった」という第8号は、接戦の試合でのリードを広げる貴重なアーチとなった。
今季、ここまでの8本中、5本がセンターから右寄りの打球だ。元々、右方向へ飛ばす技術は持ち合わせていたものの、今季は特に右へ意識が強く伝わってきており、内角のボールでも逆方向へ運ぶシーンが目立っている。
プロ11年目、打率も3割を大きく上回るなど、今シーズンのここまでの活躍ぶりは、多くのファンから「覚醒」という言葉を用いられる程だ。何より、綺麗に広角に打ち分けるバッティングは野球ファンの心を魅了してやまない。
新人の頃より打撃センスを評価されながらも、レギュラーはおろか一軍定着さえままならなかったシーズンが殆どだった。年齢的にも中堅に差し掛かり、リーグ3連覇時にも堂林自身の活躍は殆ど見られなかったこともあって、ここ数年、オフにはトレード候補に名前が挙がっていた。
だが、今季のこれだけの活躍は、長年、ファンが描き続けた「未来の主軸」のイメージがようやく現実のものとなったと言えるだろう。
無論、真の主軸となるには、より多くの役割が求められる。
5日のヤクルト戦の勝利で、カープは初の3連勝を飾ったものの、今なお借金を抱えたまま下位に沈んでいる。打席では多くのファンの期待に応えることはもちろん、個人の成績のみならずチームを浮上させてこそ、真の主軸と言える。堂林の他、好調を維持する鈴木誠也、西川龍馬らが牽引する打線はチーム打率12球団トップを記録(.283 8月6日時点)。2年振りのペナント奪還へ向けてのチーム力も十分に備えており、シーズンを通して堂林がその中心に居続けなければならない。
その確かな素質もあり、プリンスという愛称で呼ばれて10年が過ぎた。ようやく打棒を開花させた今季、夏場以降さらにチームを上位に押し上げ、「王子」がより逞しさを増した時、次はどんなニックネームで愛されるだろうか。(佐藤文孝)