4月8日に報じられた、ゴールドマン・サックスの試算によると、日本の4〜6月期の経済成長率は、前期比年率マイナス25%(!)に落ち込み、統計開始(1955年)以来、最悪になるとのことである。
2019年10〜12月期は、消費税増税の影響で、前期比年率マイナス7.1%であった。’20年1〜3月期も、マイナス成長である。日本経済研究センターによると、’20年1〜3月期見込みは前期比年率マイナス2.89%。つまりは、3期連続の「凄まじい」マイナス成長になることが確実なのだ。
ゴールドマン・サックスの予想では、’20年は暦年も年度も、共にマイナス6%と、やはり1955年以来の最悪値をつけるとのことだ。つまりは、GDPが少なくとも30兆円減ってしまう。しかも、ゴールドマンの試算値は、前回取り上げた(わずか)16兆8000億円の補正予算の執行が前提で、かつ、
「’20年7〜9月期は新型コロナウイルス感染が収束に向かう」
「経済対策の効果や海外経済の回復」
が想定されているのだ。疫病蔓延が終わらなければ、さらに落ち込む。
日本は、戦後最大、最悪の危機を迎えることになった。今年の日本経済は、政府が最低でも閣議決定済みの補正予算16兆8000億円に、GDPの6%+αを加える、つまりは対GDP比10%強の財政赤字=新規国債発行を決断しない限り、破滅的なマイナス成長になる。
それにも関わらず、日本政府は相も変わらぬ「緊縮財政」に固執しており、いまだにプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標を取り下げていない。
麻生財務大臣は、4月13日、衆議院の決算行政監視委員会で、2025年までにPBを黒字化する目標について、
「今回、借入金が増えるのでプライマリーバランスが悪くなることになるが、この目標を放棄するという考えはない」
と発言した。ということは、今回の(わずか)16兆8000億円の財政赤字にしても、将来的には増税もしくは政府支出削減で「取り戻す」という話になってしまう。PB黒字化目標を堅持する以上、そうならざるを得ない。
麻生財務大臣は、同監視委員会において、消費税減税を強く否定すると共に、
「借金を返していくという姿勢がなければ、マーケットで途端に日本の国債が売りを浴びせられかねない。マーケットをよく見ながら、考えていかなくてはならない」
とも発言している。
国債は「借金」といえば借金だが、そんなことを言った日には「現金紙幣」も日銀の借金であり、「銀行預金」も市中銀行の借金になってしまう。国債は政府の、現金紙幣は日銀の、銀行預金は市中銀行の「バランスシートの貸方に負債計上される」のだ。これは、地球上の誰も否定できない事実である。「借金」が問題だというならば、麻生財相は今後、現金紙幣や銀行預金を使うのはやめるべきだ。
また、マーケットとやらが何を意味するのか知らないが、日本国債が売られたならば、日銀が買えば終わりである。なぜ、日本銀行の国債買いオペという「通常業務」を無視するのか。それ以前の話として、日銀の量的緩和が「年に80兆円の国債を購入し、マネタリーベース(以下、MB)を拡大する」ことを目標にしている以上、
「日本国債がマーケットで売り払われる」
ことを問題にする時点で、金融政策と不整合だ。そもそも、日本国債がマーケットで売られなければ、日銀の量的緩和目標は達成できない。
というよりも、現在は国債市場から日本国債が消滅したのも同然で、日銀はもはや国債を買うことが不可能な状況に追い込まれているのだ。
信じがたい話だが、日本銀行は’20年2月、3月と、連続してMBを減らしている。すでに、3月のMBは昨年4月水準に戻ってしまった。
理由は、言うまでもない。もはや国債市場には、買える国債がないのである(だからこそ、日銀は懸命にETFを買っているが、焼け石に水)。
わが国は、財政政策については完全に間違え(PB黒字化目標)、日銀の金融政策も限界に達したタイミングで第2次世界恐慌を迎えることになった。
それにも関わらず、消費税やPB黒字化目標に固執し、「日本国民を救う」ことを拒否する麻生財務大臣は、国民の敵だ。その上、財務省(※日本の)の公式見解とも反している。財務大臣ともあろうお方が、財務省の公式見解を無視し、「国の借金」「財政破綻」といった嘘のプロパガンダを煽る片棒を担ぐとは…。
【日本の財政に関する財務省の公式見解(※「外国格付け会社向け意見書」より)】
〈日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているの〉
〈日本は変動相場制の下で、強固な対外バランスもあって国内金融政策の自由度ははるかに大きい。更に、ハイパー・インフレの懸念はゼロに等しい〉
前記が、日本の国債デフォルトやハイパー・インフレに対する、財務省の公式見解である。
財務省の見解を読むと、財務官僚が、
「変動為替相場制で独自通貨国の日本が、自国通貨建て国債のデフォルト(財政破綻)に陥る可能性はない」
と、主権通貨国(日本、アメリカ、イギリスなど)における財政破綻があり得ないことを、正確に理解していることが分かる。無論、ユーロ加盟国、固定為替相場制の国、外貨建て国債がある国は、普通に財政破綻する。とはいえ、主権通貨国は、財政破綻しようがない。これが、真実なのである。
問題になるのは「インフレ率」のみだが、そもそも安倍政権の「建前の目標」は、デフレ脱却である。第2次世界恐慌を受け、日本が財政を拡大し、国民を救い、デフレ脱却したとして、何が問題なのだろうか。
無論、財務省がこだわるPB黒字化目標の達成は不可能になるが、だから何なのだ。有害なPB目標よりも「国民の生命」の方が大事であると考える、筆者の価値観が間違っているのだろうか?
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。