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志村けんさん逝去による国民の危機意識の向上、その心理効果や影響を受けやすい人の特徴とは

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志村けんさん

 3月29日、日本を代表する大御所のコメディアンとして多くの人々から親しまれていた志村けんさんが、新型コロナウィルスによる肺炎のため東京都内の病院で亡くなった。所属事務所によって感染の事実が発表された25日から、わずか4日後のことだった。

 志村さんは70歳であり、感染後死亡リスクの高い高齢者の部類に入る。だが、感染発表後、志村さんに対して、「あの人は死ぬはずない」「きっと大丈夫だろう」と信じていた人が多く見られていた。その理由には、「無事であって欲しい」という人々の願いの他、「ハロー効果」という心理現象が関係している。

 ハロー効果とは、ある人物の良い一面に影響を受けて、それとは関係のない他のことについての評価にまで影響が及んでしまう心理効果のことで、「ハローエラー」とも呼ばれる。例えば、字が綺麗な人は頭が良さそうに思える、有名女優が使っている化粧品は効果が高そうに思える、といったものが代表的な例だ。

 志村さんの場合で言うと、職業柄、長年にわたって人々に「笑いを提供する」という明るいイメージがあったため、それが「生命力が強い」と思いこませていた原因になったのかもしれない。
 生命力や活力を連想させる「笑い」と、「死」はほぼ対極にある。また、その笑いの質として、誰かを攻撃したり自虐的だったりといった負のイメージの要素がなかったことも、よりポジティブな印象に影響を与えているだろう。さらに、志村さんは、人を笑わせるだけではなく、自らも常に笑顔を絶やさない朗らかな人柄だった。そんな志村さんは人々にとって、死ぬはずはなかった、きっと生きていて欲しかった存在だったのである。
 それなのに、亡くなってしまったという志村さんの受け入れがたい死は、これまで国民に笑いの活力を与えてきた功績を遺しただけでなく、新型コロナウィルスの感染拡大に関わる国民の危機意識にも大きな影響をもたらしている。
 
 テレビを通じてその存在に親近感を感じていた人物の死は、匿名の死亡者情報よりも、より死の事実を身近に感じるものだ。特に、志村さんのように「死なない」と思っていた人物が亡くなってしまった意外性で受けたショックが、それまでの危機意識をより高める可能性がある。
 また、志村さんの身近にいた人やファンはもちろん、強く意識したことのない人も大きなショックを受け、影響を受けている。

 これまでに、「自分は大丈夫」と楽観的に構えて外出自粛の呼びかけを無視していた高齢者は、同世代の志村さんの死を受けて、いよいよ他人事ではないと、改めて新型コロナウィルスの脅威を身近に実感するきっかけになった。
 さらに、「周りには感染者がいないから」「感染しても自分の世代は重症化リスクが低いから」と言って、まるで他人事のように考えていた若年層も、自分の祖父母世代である志村さんの死を受け、自分の身の危険を実感するだけでなく、自分たちの危機意識の低い行動がもたらす身近な高齢者への影響についても考えることとなった。

 いずれにしても、高感度と知名度が高かった大御所コメディアンの志村さんだったからこそ、あらゆる年代の人に与えることができた心理効果だと言える。約50年もの間、幅広い年齢層の国民に笑顔と活力を与え続けた偉大な存在に敬意を表すると同時に、ご冥福をお祈りする。

文:心理カウンセラー 吉田明日香

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