皆様にもこんな経験ありませんか? ワタクシ、齢四十を越えた頃から記憶力に自信がなくなりまして…いや、そもそもワタクシの脳の「学習」を司る部分の働きがイマイチなのかもしれませんが、性懲りもなく同じドツボにハマってしまうことが度々あります。
春ですね。日毎に日射しが力強さを増し、ポカポカ陽気に誘われて屋外へ出かけたくなる時期であります。
ところが釣りに関しては、この時期は要注意なんです。この連載を長らくご愛読の方はご存知かと思いますが、陸上と海中では季節の推移が1カ月ほどズレますので、3〜4月の海はまだ冬。まだ「寒」の最中です。
ベテランは、このシビアな状況を楽しみながら魚にアプローチをするのでしょうが、ワタクシにそのような崇高な志があるわけもなく…。
ということで、こんなもどかしい時期でも多彩な魚と遊べる沖縄県・石垣島へ逃避…。否、遠征して参りました。沖縄本島から南西へ約400キロ。八重山諸島の中枢となるこの島は、年間の平均気温が24℃という常夏の地です。記録的な暖かさだった今冬においても身に堪えてしまうオッサンにとっては、文字通りの“パラダイス”であります。
空港からレンタカーを駆って釣り場へ直行! と言いたいところですが…、腹が減っちゃいまして…。
とりあえず旨い&安い&早いがウリの“八重山そば”をたぐって腹ごしらえをし、満腹感とともに事前に目星を付けていた浜崎マリーナ堤防へ向かいます。
釣り場に到着する頃にはとっぷりと日も暮れ、港内の常夜灯がアヤしく海面を照らしていて、実にイイ雰囲気です。早く竿を伸ばしてヤりたい気持ちが抑えきれず、安物の短いセット竿を準備します。
ここでグッとヤりたい気持ちを抑えて、志高く大物狙いができればいいのですが、何せこらえきれない性分でして…。
★エサもルアーも同じ魚に終始…
「どんなヤツが来ても、気持ちよくなれればイイや」
短冊状に切り刻んだイカの身をハリに付け、スルスルと堤防際に落とし込んでいきます。これで“ミーバイ”と呼ばれるハタの類が掛かれば、しめたものです
海底付近で仕掛けを上下させながらじっくり探っていくと、やがて「グリグリンッ!」という感触が伝わります。元気な手応えを楽しみながら巻き上げてくると、南方の夜釣りでよく掛かるアヤメエビスが釣れ上がりました。何であれ、魚が掛かれば気分は悪くありません。
ただ、ひたすら同じ相手との対面は…、飽きてしまいます。
フリーコースを選んだ自分が悪いのですが、“チェンジ”を要求したにも関わらず、同じ顔&コスチュームの相手に「こんばんは」と顔を出されても…。
高揚と興奮が次第に失われていたこともあり、小魚を模したメタルジグ(金属製ルアー)に仕掛けを結び替えます。これなら魚食性が強いミーバイを効率的に狙えるでしょう。
「アヤメエビスよ、キミの小さな口ではコレは食わえ込めないだろうよ。キミより口の大きなミーバイに気持ちよくしてもらうから、もう来ないでね!」
そんな独り言を言いながら、いかにもミーバイが潜んでいそうな桟橋の下にメタルジグを投げ込み、海底付近でしゃくり上げては落とす、を繰り返します。
やがて「コンッ!」とアタリが伝わり、竿には適度な重量感と抵抗感が伝わりました。期待に胸を高鳴らせながら巻き上げますが…、上がってきたのはまたもアヤメエビス。もう、キミにはボクの竿しか見えていないんだね
★ウロコごと焼いて極上の肴に
さて、紅白の美しい色合いが注目されがちなアヤメエビスですが、いざ調理する段では鎧のように硬いウロコと鋭いトゲに難儀します。また口が小さく、エラブタもカミソリのような形状をしているため、ハリを外す際にも注意が必要です。
前述のように、「学習」を不得手とするワタクシですから、南方遠征の際は釣行後に手が傷だらけ…になりがちです。
釣り場で鋭いトゲをすべて切り落として持ち帰ったアヤメエビスは、ウロコを剥がさないまま肛門から腹を割き、内臓を取り除いて塩焼きにします。焼き上がったところで、ウロコごと皮を剥がして身を取り出してひと口。
上質なアジの旨味をさらに濃くした味わいとでもいいましょうか、非常に美味しいです。100年以上の歴史をもつ玉那覇酒造『玉の露』とともに上質な晩酌を楽しませてくれ、石垣の夜は酩酊のまま更けていくのでありました…。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。