北朝鮮のミサイル発射は今年に入って2度目。3月2日に発射されたのが今年初で、今回で2週連続となる。しかも、ここ最近の短距離弾道ミサイルの発射はすべて2発で、3発発射は珍しいという。
異例の3発発射と、2週続けての連続発射の裏には、どのようなメッセージが込められているのか。
米国主導による各種制裁を緩和させるためのトランプ大統領に対するメッセージとみる専門家もいるが、軍事評論家は「そうではない」と断言する。
「米国の北朝鮮チームも大きく変わり、ビーガン北朝鮮特別代表が当面は国務省副長官を兼任、国務省のランバート対北朝鮮特使が国連の多国間連帯特使、ウォン国務次官補代理(北朝鮮担当特別副代表)が国連次席大使になりました。北朝鮮でも、軍人出身の李善権前祖国平和統一委員会委員長が外相に任命され、現在、両国とも本格的な交渉ができる体制にありません」
今回北朝鮮がミサイル発射したのは、「親米という立場を崩さない韓国・文在寅大統領への“最終警告”です。北朝鮮はそれほど苦しい状況なのです」(同)という。
新型コロナウイルスが問題視される前から、北朝鮮を取り巻く情勢は「米国主導の経済制裁」「農業不振による食糧不足(国民の半数近くが飢餓状態)」によって、厳しい状態が続いていた。そこに「新型コロナ感染拡大の恐れ」、さらには「中国からの支援途絶」という逆風が重なり、最悪の事態に陥っている。
3月13日、北朝鮮の切羽詰まった実情を在韓米軍のエイブラムス司令官が打ち明けている。北朝鮮軍は約30日間にわたり閉鎖状態にあり、過去24日間は航空機も飛行していない。そしてその理由は、新型コロナにあるとの見方を示した。
加えて、金正恩氏は新型コロナに感染することをかなり恐れていることがうかがえる。
「北朝鮮では食糧が不足すると、“飢えて死ぬ”のは人民だけですが、ウイルスは正恩氏だろうが同じ人間として感染します。特に心疾患や糖尿病といった持病がある正恩氏は、感染した場合に重症化しやすく、死に至る可能性もある。そういう認識を自身が持っているようです」(北朝鮮ウオッチャー)
正恩氏は2月16日に太陽宮殿(金日成・正日親子の遺体を永久保存、安置する施設)を参拝しているが、昨年の同行事と比較すると、今回は同行した側近の数が大幅に減り、正恩氏と側近との間隔は大きく隔たっていた。新型コロナ感染への警戒感がモロ出しだったのである。
「2月28日に党中央委政治局拡大会議が開かれているのですが、正恩氏と政治局員全員が写っている写真は1枚もありません。このとき以来、新型コロナ感染を恐れて表には出て来ていないと思われます。また、正恩氏が視察や指導を行っている公開写真は、すべてマスクを着用していませんが、これらすべての写真は合成されたものです」(北朝鮮消息筋)
3月2日には大規模な射撃訓練中の写真が公開されているが、これを見た軍事アナリストは「明らかに合成」だと指摘する。
「写真には、海岸に配備された152ミリ自走砲、170ミリ長射程砲、240ミリ多連装砲の射撃訓練が写っていますが、おかしいことだらけです。152ミリ砲の列が前後に配置されて同時射撃しているのですが、この配置で本当に射撃したのであれば、前方に配置されている砲と兵士は、吹っ飛んでいるはずです。また、これだけ多くの火砲で射撃するのであれば、ものすごい量の弾薬箱が散乱しているはずなのに、わずかしか写っていません」
理由は、火砲1門1門を合成して作成したものだからだという。
「監視所から正恩氏が射撃訓練を視察・指導している写真も合成で、実際は軍人から新型コロナに感染するのに怯えていますし、軍も訓練どころではないことが分かります。正恩氏は北朝鮮国内では神ですから、自分は新型コロナに感染しない、あるいはウイルスなどには怖がらないという“カリスマ性”を演出しているのです。また、対外的には『兵士は新型コロナに感染していない、だから軍はいつでも戦える』ということを見せつけたかったのでしょう。ただ、思惑とは反対に、写真からは北朝鮮が余裕のない状況であることが伝わってきます」(前出・消息筋)
そんな国内情勢に苦しむ正恩氏は、前述の3月2日、今年初となるミサイル発射をしたのだ。
「韓国大統領府はその直後に北朝鮮に対する憂慮を表明し、発射中止を求めました。しかし、正恩氏の実妹の金与正氏からは『よその軍事訓練に口出しするとは居直りの極致だ』『低能な考えで驚愕する』『生意気で愚か』『行動が3歳児なみだ』という辛辣な言葉が届いた。正恩氏が妹に言わせたかったのは、『文大統領よ、米国主導の制裁を無視しても、言葉でなく、実効のある支援を申し出よ』ということ。それでも態度をハッキリさせない文大統領に痺れを切らした正恩氏が、最終警告として3月9日にミサイルを発射したのです」(前出・軍事アナリスト)
新型コロナによって追い込まれた北朝鮮から最終警告を受けた韓国は、米国を裏切れるのか。