「首脳陣の評価も高いようですね。打つだけではなく、走塁面でも。紅白戦・第二打席で左翼線上に運び、躊躇なく、二塁まで走りました。アウトにはなりましたが、その積極性が高評価につながりました」(取材記者)
右の大砲候補、伏兵出現といった感じで、モタの奮闘ぶりが各紙でも伝えられていた。しかし、巨人ファン、社会人、学生野球の間では、ちょっとした有名人でもあったのだ。昨季の巨人三軍戦、主に育成選手で戦う社会人・学生とのプロ・アマ交流試合で、モタはケタ違いの本塁打を見せつけてきた。筆者も偶然、モタの左翼方向への一撃を見たことがあるが、日本人選手には打てないその飛距離と打球の高さは圧倒された。
もっとも、アマチュアのピッチャーにはケタ違いのパワーを見せつけても、昨季の二軍成績は「やや苦戦」といったところだった(22試合1本塁打)。来日2年目のこのキャンプで、その成長を見せつけたようである。
「キャンプ後半、一軍は沖縄に移動しますが、現時点ではモタも連れて行くようです。オープン戦で結果を出せば、支配下登録も見えてきます」(前出・同)
雨天で室内練習となった12日、年俸150万ドル(約1億6000万円)の助っ人、ジェラルド・パーラが、打撃練習中のモタにアドバイスを送っていた。ポジションを奪われかねないライバルへの助言。パーラの人柄か、それとも、元メジャーリーガーの余裕か…。
「モタ、育成出身のメルセデスなどもそうですが、全球団の育成選手は練習熱心。日本人の育成選手も同様です」(ベテラン記者)
覇者・ソフトバンクがそうであるように、育成から這い上がってくる選手が多いチームは強い。打つ、走る、肩の強さなど一芸に秀でた選手を獲って育てていくという育成枠は、これからのプロ野球界にとっても必要なシステムだろう。
しかし、こんな見方もできる。モタのような練習熱心な選手を見ていたら、コーチたちは「試合に出してやりたい」と思うだろう。モタに刺激を受けた二軍選手も発奮するだろうから、こちらにもチャンスを与えてやりたい。試合数は限られている。その時、どうなるのか?
「選手会は『出場機会の少ない選手』のチャンスを広げるため、現役選手のドラフト会議(ブレークスルードラフト)の導入を訴えています。目下、指名対象選手の基準を巡って、経営陣との話し合いが続いており、草案作りにも苦労しています」(前出・同)
せっかく育てた若手が他球団に奪われてしまうなんて事態にもなりかねない。たしかに、“飼い殺し”は良くない。とは言え、ここまで育ててきた首脳陣の気持ちを考えると…。若手選手、育成枠選手の成長を単に喜ぶだけの時代ではないようだ。(スポーツライター・飯山満)