昨年の大会で準決勝まで進んだ場合は、1回戦はシードとなり、2回戦からの出場となるが、それでも決勝進出には、3回戦、準々決勝、準決勝を勝ち抜かねばならず、最低でも4回分のネタを用意する必要がある。準決勝進出者が敗者復活戦へ出場する場合は、5回分だ。さらに、本番の決勝で1回、最終決戦で1回の合計2回となり、『M-1』優勝を本気で狙いに行く場合には、6〜7回分のネタが必要な計算になる。
もちろん、すべての回で違うネタをやる必要はないが、どの段階でどのネタをぶつけるかは、微妙なバランス感覚が求められると言われる。
ナインティナインの岡村隆史が、昨年の『M-1』を受けて、ラジオ番組『オールナイトニッポン』(ニッポン放送系)で語ったところによれば、テレビである程度売れている芸人は、ほかのネタ番組で披露している鉄板ネタをやると、「これ知っている」となりウケが弱くなることがあるという。そのため、ベタネタを敬遠しシュール、実験的、二番手のネタをぶつけると、場合によっては大スベリしてしまい、3回戦や準々決勝で敗退といったリスクもある。実に厳しい戦いなのだ。
さらに、いわゆるキャラクター芸人は、それ一本で押し通していかなければいけないため、もともとバリエーションが少なく、場数が求められる大会では不利となる。
ネタのチョイスは、その日の会場の空気などとも合わさって、直前に変える場合もある。『M-1グランプリ2008』で、オードリーは敗者復活から勝ち上がり、最終決戦出場を決め、NON STYLEに敗れ準優勝にとどまるも、ブレークを果たした。本来ならば、「ズレ漫才」をそのままやる予定だったが、直前にネタを変えた。後に、くりぃむしちゅーの上田晋也らから「あのまま行けば優勝できた」とダメ出しされたという。まさに一瞬の判断が、運命を左右するのが『M-1』だと言える。若手芸人たちの健闘を祈りたい。