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創作実話を紡ぐ人々(3)

 客観的な事実を土台としつつも創作を織り交ぜ「あたかも事実であるかのように装って語られるフィクション」が、いわゆる創作実話である。かつて、創作実話は週刊誌や夕刊紙のコラムに欠かせない、いわば定番ネタとして流通していた。往々にして、単なる埋草として紙面の片隅に追いやられつつも、文字通り虚実織り交ぜた物語の面白さは、少なからぬ読者の支持を獲得していたのである。

 創作実話の面白さはネット媒体においても十分に通用したが、紙媒体における創作実話よりもはるかに創作であることを隠す、つまり実話としての正当性を主張するようになった。それは、読者に「本当の出来事」と思わせることが創作実話の面白さを支えているという認識が深まったためで、それにともない紙媒体の時代には見受けられた「あからさまに事実とはことなる要素を折り込み、それとなく創作であることを示す」といったネタバレ要素は、徐々に減っていく傾向にある。

 これは、新作の創作実話のみならず、過去に流布した、あるいは海外の創作実話を紹介する際にも見受けられ、ネタバレ要素を削ったり翻案することが少なくない。

 ゲーム「艦これ」の流行に乗じて掘り起こされた「悲運の軍艦シャルンホルスト」という創作実話も、同様にネタバレ要素を削った改変版が流布されている。もともとは、オカルトミステリー作家のフランク・エドワーズが著書で紹介した創作実話だったが、最初に日本語へ翻訳された段階では改変されていない。改変されているのは最近になってネットで紹介されているバージョンで、シャルンホルストが参加していない作戦のエピソードが削除されているほか、進水式前に船台から滑り落ちたという怪事件が「名付け親になるはずだった美少女の自殺」へと改変されている。

 これは、シャルンホルストの進水式や行動記録は資料が多く残されており、ネットの検索で簡単にネタバレするため、よりバレにくいエピソードを再創作したと考えられる。とはいえ、軍艦の名付け親を美少女と設定するところなど、おそらくネットウケをねらったであろう改変者の意図が透けて見え、大変に興味深い。

 ちなみに、シャルンホルストの名付け親は第一次世界大戦で戦没した巡洋艦シャルンホルストの艦長未亡人であり、もちろん自殺などしていない。

 とはいえ、読者の願望をいかにうまく取り込むかが創作実話の妙であり、その点で改変者はかなりうまいところをついていたと言えるだろう。

(続く)

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