search
とじる
トップ > スポーツ > プロ野球球団は本当に儲からないのか(2) 観客減は「ペナント低迷」だけが原因か?

プロ野球球団は本当に儲からないのか(2) 観客減は「ペナント低迷」だけが原因か?

 オリックス球団が近鉄と合併し、オリックスバファローズと名称を変えた04年のオフ、“初代監督”に就任した仰木彬監督(故人)が『よしもと新喜劇』の舞台に立ち、「是非、球場に!」と訴えたことがある。ファンサービスの一環であり、決して悪いことではない。また、『球団合併の悲劇』は真剣に経営再建、ファン拡張を考える契機にもなった。

 本当のファンサービスとは何だろうか。落合博満・中日監督は「勝つことが最高の…」と言った。正論である。だが、強いだけでは観客動員数は増えない。中日球団が“優勝監督”の退任を決めたのも不人気が原因とされ、かつて、西武ライオンズの黄金期を築き上げた森祇晶氏が監督の座を追われたのも、観客減が影響していたという。
 勝利してもお客さんが来ないのなら、プロ野球そのものの存在意義が問われてしまう。観客減は指揮官を交代させれば全てが解決するというものではない。ファンに球場に足を運んでもらうには、現場とフロントが一体となることが重要ではないだろうか。

 プロ野球の無料招待券(タダ券)をもらったことがある。昭和50年代の話だが、新聞販売員に「定期購買の契約してくれたら、後楽園球場のチケットを」と言われ、昨今も「取引先の部長がそっちの方に顔が利いて…」と、『無料招待券』と記された公式戦チケットを見せびらかされたことがある。
 ひと昔前、パ・リーグの外野席は“タダ券のお客さんばかりだった”とも聞く。タダ券が悪いとは思わない。普段、あまり野球に興味のない人でも「タダなら球場に行ってもいい」と思うだろう。何よりも、その1回の観戦がプロ野球ファンになるきっかけとなり、また家族連れであれば、次世代の子供たちにも野球の楽しさをアピールできる。
 しかし、プロ野球各球団がタダ券をバラ撒いて何年が経過しただろうか。その効果が表れないのは何故だろう…。この種の質問をすると、フロント職員が決まって返すのは「ゲーム内容や選手のスター性」である。間違ってはいない。では、プロ野球界の不況の責任は『現場』だけにあるのか? 
 2005年1月17日、『第1回 県立野球場建設促進委員会』(新潟市・NSGカレッジリーグ学生総合プラザ)を取材した。同委員会にはJリーグ・アルビレックス新潟のフロントスタッフも関係していた。アルビレックスのJ1昇格、観客動員数の新記録達成(当時)に加え、『新潟に県民球団を創る会』(04年10月6日会見)や、男子バスケのプロリーグ『bjリーグ』への参加などもあり、新潟が『総合スポーツ都市』として注目されたころでもあった。アルビレックスの池田弘代表取締役(会長)やそのスタッフによれば、J1昇格の04年、主催15試合・56万5336人の動員、03年のJ2時代のホーム動員数66万7447人(1試合平均3万人突破)は、タダ券を起爆剤にしたものだと話していた。

 しかし、「どうぞ、ご自由に」と、単にばら撒いたのではない。もらった側にしても、最初の1回は好奇心で「行ってみようかな」と思うだろう。配布した無料チケットの利用者をリピーターに発展させるため、「どんな年齢層が、どの地域の人が、どんなグループなのか」など、集客分析にも役立てていたのだ。タダ券に番号を振っておけば、どの地域で配ったのか、どのグループ、会社に渡したのか、見当がつく。そして、その分析データをもとに、集中的にタダ券を撒く地域、年齢層が定め、また同時に「この地域からのお客さんが少ないから」と、新規ファン獲得のためのヒントにもしていた。
 タダ券の利用者がリピーターになってくれるかどうかは、選手たちに掛かっているが、アルビレックスのフロントは『現場』と二人三脚での努力を続けた。フロントは次のプロジェクトも考えた。たとえば、ファン会員の募集だが、その特典を単純な年間フリーパス・チケットにはしなかった。ウィークデーと週末では客層も違って来る。土、日曜日は家族連れも多くなるので、『個人会員』と『ファミリー会員』とに分けてみた。クラブ側が会員にお願いしたのは、「特定の観戦回数に満たなければ、年度更新できない」ということだけ。会員自身がスタジアムに行けなければ、会員証は友人らに貸してもいいと言う(05年取材当時)。
 タダ券はばら撒くだけでは意味がなく、撒いた後の方が重要なのである。

 千葉ロッテの本拠地QVCマリンの玄関口でもあるJR海浜幕張駅前では、公式戦の行われる日の夕方、要職にあるフロント職員も街頭に立ってピーアール活動をしていた。その熱意に敬服した。プロ野球球団の多くは親会社からの出向職員でフロントが構成されている。個人的にはプロ野球界と自軍に愛着を持つ人なら、前歴は問題ではないと思う。
 横浜ベイスターズの売却先としてDeNA社が浮上した際、「NPB加盟の資格」が議論の焦点となったが、ベイスターズを再建し、どうやって経営していくのかが1度も論じられていない。フロント職員の前歴、買収先企業の業務形態よりも、経営ビジョンを重要視すべきである。
優勝チームが年間・観客動員数のトップにもなるとは限らない。どの球団のフロント職員も多忙なのは見て分かるが、職務内容を見直し、その優先順位を整理すれば赤字体質も解消できるのではないだろうか。(スポーツライター・美山和也)

※本編は『誰も触れない スポーツ界光と影』(別冊宝島)にある「新潟に誕生!? プロ野球チーム」(美山和也著)を一部参考といたしました。

関連記事

関連画像

もっと見る


スポーツ→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

スポーツ→

もっと見る→

注目タグ