福留孝介(33)の長所と短所を『過去3年のデータ』から整理してみたい。シカゴカブスが彼をレギュラーから外し、「右投手が先発する試合」に出場を制限した理由は、前半戦と後半戦で異なる。
前半戦は好不調の波が大きく、長打が少ないためだった。しかし、後半戦は「ライバルの出現」に泣かされた。新鋭、タイラー・コルヴィン(25)の頭角だ。もともと、長打力が期待されていた若手の1人だったが、オープン戦で4割6分8厘と大当たりし、開幕メンバー入りを果たした。6月、福留の打撃成績が落ちると、ルー・ピネラ監督(当時)は迷わず、このコルヴィンをスタメンで起用した。2カ月間で本塁打10本をかっ飛ばす大活躍だった。
この新鋭の成長を受け、フロントも動いた。年俸1350万ドル(約11億5000万円)の福留をトレード要員とし、レッドソックスなどに「高額年俸の残存をこちらが負担するから」とまで言い放った。ここまで言われれば、トレードの目的は選手交換ではなく、福留の放出だ。
こうした情報は当然、福留本人の耳に届いていたはずだ。福留が「4年契約の満了をもって日本に帰還する」と口走った情報が本当だとすれば、フロントの冷遇が理由だろう。
しかし、福留はこんなところでオトコではない。コルヴィンのバットに一時期ほどの勢いがなくなり、三塁走者としてグラウンドに立っていたときのことだ。味方打者の折ったバットが直撃し、負傷してしまった。大事には至らなかったが、再び『右翼手』としてスタメンに名を連ねた福留は「守備」で存在感をアピールした。右中間を抜きそうな鋭い打球が来れば、ダイビングキャッチを試み、かつ内野のカットマンまで鋭い返球もみせる。当然、味方投手は「福留に助けられた」と感謝する。そして、「コルヴィンはナイスガイだが、福留も必要だ」と訴えるようになった。
福留残留論が強まるのと同時に再検証されたのは、センターのマーロン・バード、レフトのアルフォンソ・ソリアーノの守備力である。とくにソリアーノは攻守ともに落ち目にあり、オフは放出トレードも画策された。しかし、ソリアーノのトレードもまとまらなかった。理由は、福留同じ「高額年俸」がネックになったからだった。
メジャー各球団、及び米メディアにはデータ分析を専門とするアナリストもいる。そのメディア系アナリストのなかには、「福留は OPS(出塁率プラス長打率)が高い。出塁率だけを見れば、コルヴィン、ソリアーノよりも高い」と“レギュラー再奪取”を推す声も多いという。
昨季5月下旬から夏場の掛けての長期スランプはいただけないが、コルヴィン故障後は巻き返し、出塁率3割7分1厘、OPS8割9厘の好成績を残した。もっとも、昨季の打率は2割6分3厘、本塁打13だから、「今季26歳になるコルヴィンを育てるべき」という声も一理ある。
「福留とコルヴィンは左打者。この2人を『対右投手』のプラトーン(併用)で使うか、コルヴィンとソリアーノをレフトでプラトーンにするか…。センターのバードは外せないと思うが、4人の好不調を見極めながらスタメンを決めるか…」(米メディア陣の1人)
いずれにせよ、福留の外野守備能力は彼を外した前任者のピネラ監督も認めざるを得なったほどだ。昨年8月下旬から指揮を取ったマイク・クワーディ監督も「福留、コルヴィン、ソリアーノ、バードは横一線の競争」としており、たとえ、福留が弾き出されたとしても、他29球団は「福留はまだできる」と見ている。高額年俸がネックならば、カブスとの契約満了後、新球団と的額の新年俸額で契約し直せばいいだけのことだ。
日本帰還は既成事実のように捉えられている。福留に欠けているのは『長打率』ではなく、メジャーで生き残るという貪欲な姿勢ではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)
外国人選手名の方仮名表記はベースボール・マガジン社刊『月刊メジャー・リーグ』を参考にいたしました。