「金本監督がキャンプ初日からブルペンで睨みを利かせたのは、秋季キャンプで鍛えた若手が自主トレできちんと体を作ってきたかどうかを確認するためでもありました」(同)
しかし、本当の目的はそれだけではない。金本監督は先発5番手以降を自前で育てたいとしており、それは単なる理想ではない。特に3年目の左腕、岩崎優には期待を掛けていた。解説者時代から「ちょっとしたきっかけで変わるのではないか」と見ていた。
「岩崎は昨季10敗(3勝)もしています。だけど、金本監督は『中途半端に負けるより、これだけ負ければふっ切れるだろ?』と声を掛けました。自信をなくしかけていた岩崎が前向きに変わりました」(球団関係者)
開幕一軍に残った榎田大樹に対してもそうだった。榎田は“落伍者第1号”でもあったのだ。
「投手の犠打練習時(秋季キャンプ)、金本監督は一塁までの全力疾走を義務づけました。すると、榎田は足を痛め、強制帰阪となりました」(前出・在阪記者)
榎田がグラウンドに倒れ込んだとき、金本監督は見向きもしなかった。しかし後日、こうも語っていた。
「怪我をしたくなかったら、体を温めるとか冷やすとか意識するはず。怪我をして分かったんじゃないか」
金本監督の言葉はコーチを介し、榎田に伝えられた。見捨てず、再びチャンスも与えた。
キャプテン・鳥谷敬も変わった。どちらかといえば寡黙な選手だったが、積極的に周囲にも声を掛けるようになった。
横一線の競争は副産物を呼んだ。梅野隆太郎と新人・坂本誠志郎による正捕手争いも繰り広げられたが、13年目の岡崎太一が開幕のスタメンマスクを勝ち取った。努力した者を評価するという金本イズムである。
「インタビューを受ける際、監督は今成亮太、ヘイグ、大和、上本博紀、江越大賀らの名前も出した。まだチャンスはある、見ているというメッセージですよ」(前出・球団関係者)
「補強よりもムード作り」というと楽観的だが、金本監督は内部競争を煽り、敗れた者にも配慮する。内部競争は勝敗への執念にも繋がった。今年の阪神はブッチギリVも十分あり得る。