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創作実話を紡ぐ人々(5)

 いわゆる「創作実話」とは、フィクションでありながらも実話か、それをもとにしたエピソードであるかのように装った物語で、ネットの流行語となるはるか以前より存在していた、古くて新しい手法である。たとえば「ペニーブックス」と呼ばれるイギリスの低価格読み物は大衆向け娯楽出版の先駆け的な存在だが、犯罪やエログロゴシップの実録をうたいつつも根拠の無い噂や伝承にもとづいた、あるいは完全なる創作記事が数多く掲載されていた。その中には、現在でもなお人気を博している作品があり、特に創作恐怖読み物の「スウィーニー・トッド」は繰り返し映画化や舞台化され、世界的に知られた題材となっている。

 物語のあらましは以下のとおり。

 主人公はロンドンの理髪師スウィーニー・トッドと共犯となるパイ屋(惣菜屋)の女将で、トッドがヒゲを剃ると見せかけて客の喉を切って殺害、女将は死体の肉からパイをこしらえていた。だが悪事は露見し、トッドはオールドベイリー(中央刑事裁判所)で裁かれ、有名な刑場のタイバーンで1802年に公開処刑された。

 スウィーニー・トッドの物語が初めて登場したのは「ペニーブックス」のひとつであるThe People's Periodical and Family Libraryで、連載読み物として1846年から翌47年にかけて掲載された。連載中から人気を集めたようで、完結後すぐに舞台化されている。その後も繰り返し舞台で上演され、また映画化もされた。しかし、少なくとも19世紀の後半には中央刑事裁判所にそのような事件の記録が存在しないことや、また1802年にタイバーンで公開処刑が行われていないこと、さらに同時代の司法記録や新聞記事にもそのような事件は記されていないことが指摘され、創作実話であるとの認識が広まっていた。

 ただ、実話派も少なからず存在しており、タイバーンとは処刑場を意味する比喩で、同名のそれを意味しないとか、なんらかの要因で処刑を逃れてスコットランドへ脱出したなどの異説を唱えていた。そして1979年に出版された本で、やはり実際におきた事件をもとにしていると、ピーター・へイニングというイギリスの作家が主張し、おりからのブームに乗ったこともあり、議論が再燃したのである。

(続く)

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