『紋切型社会』 武田砂鉄 新潮文庫 550円(本体価格)
★決まりきったフレーズの違和感
「嘘吐き」と「法螺吹き」はどう違うか? 聞いた途端に思わず「んなこたあり得ねえだろ」と口にする間もないうちに爆笑を誘われるほど、朗らかに下らなくて実害の一切ない良性の嘘なのが筆者の定義ではホラ。
一方、吐いた人間の心根や品性の程度が問われるもので、それを耳にした者の多くが結局、事実と異なると分かった後も、不快な後味だけが残って本書中の表現を借りるなら“誰がハッピーになるのですか?”というのがウソだ。
では「お約束」と「紋切型」の場合はどう違うだろう。映画や演劇の名場面、歌舞伎の役者なら見得を切る瞬間だし、落語家なら人情噺のクライマックス、あるいは熱湯風呂のそばに立つダチョウ倶楽部の上島竜兵氏が目を見開いて「押すなよ!」と念を押す頃合いがまさにそう。パターンの細部まで把握していながら満身で「待ってました」と声を掛けたくなるのが前者であり、油断すると(否、していなくとも)その言葉を濫用した結果、自分自身で気づけぬまま思考停止状態に陥りかねない危険性を孕んでいるのが後者といえまいか。
古くは二枚目、イケメンでない役者には「演技派」「実力派」また「性格俳優」なんて珍なる形容も流通したが、最近だとただのデブをP・C的に指弾されるのを恐れてか、なべて「ぽっちゃり系」と言い換えるのも紋切型の気持ち悪さ。芸人の場合、ひと昔前でいう「不思議系」、「シュール」な発想のコントを披露すれば審査員の台詞は「面白い世界観だね」。
日本がアメリカの属国であると言いたいのを「ドラえもん」のジャイアンとのび太、スネ夫の関係性に例える比喩など最たるケースかも知れない。辛抱強く違和感を抱き続けることの重要性を痛感する、刺激的論考。_(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
「終活」という言葉が身近になった現在だが、では、臨終に向けていったい何をすべきかは、正直「?」である。
実際、ヤルべきことは広範囲にわたりひと筋縄ではいかない。そう痛感させられるのが『週刊現代 別冊おとなの週刊現代 死後の手続きはこんなに大変です』(907円+税)だ。
人が死んだ後は書類上の手続きだけでもこんなに面倒! という内容だ。役所や金融機関に提出する書類だけで、何と36種類もある。一部を紹介すると、「復氏届」「姻族関係終了届」「国民健康保険資格喪失届」…復氏届って何だよ? と思ってしまうだろうが、詳細はご自身で調べてもらいたい。
また、面倒なのが銀行。口座の閉鎖や名義変更だけでも煩雑な手続きを要する。これに生命保険や株を所有しているなら、手続きはもっと増える。
さらに自宅の相続や処分、葬式の段取りと料金、墓石の購入と墓の建て方、犬や猫を飼っていたら引き取り手はどうするかなど、死ぬことは生きることより面倒なのではないかとさえ思える。大半の人はこうしたことを放置し、亡くなった後は遺族に任せきりなのである。それなら生前に書類を集めておき、できれば必要事項も記入しておくことが望ましいというワケだ。
ぶっちゃけて煩わしいテーマの1冊。だが、2月15日に発売されると即日重版がかかり、10万部を突破したという。サブタイトルは「人生最期の総力戦」。確かにこれらの手続き、家族の総力を結集しないと乗り越えられそうもない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)