土肥は春日部共栄高校(埼玉県)、プリンスホテルを経て、97年ドラフト会議で西武ライオンズ(4位)に入団した。プロ2年の99年からはセットアッパーもできる『シチュエーショナル・レフティー』として、一軍に定着した。年間本塁打数55本の日本タイ記録保持者、タフィ・ローズ(近鉄−巨人−オリックス)に「大の苦手」と言わしめたのは有名だが、メジャー流に称すれば、チーム事情によって先発、救援と、さまざまな役どころもこなせる『スイングマン』でもある。
そんな彼がアメリカでのトライアウトを終え、帰国したのは12月3日。「準備していったことは全て出せた」と、“手応え”を語っていた。代理人によれば、メジャー各球団との交渉は小康状態とのこと。トライアウト中、「対左打者に投げたチェンジアップ」を称賛するメジャースカウトの声は日本にも届いていた。ウィンター・ミーティングも行われる12月は、メジャー各球団にとっては『補強シーズン』とも言えるが、米FA選手や有名選手との交渉が優先されてしまう。今は朗報を待ちながら、来季に備えているという。
土肥の人柄を物語るこんなエピソードが聞かれた。
食事を兼ねた代理人との打ち合わせで、彼はいつも違う場所を指定してきた。
「理由? 会ったときに話すから…」
代理人は土肥投手の言葉に従い、都内某所に向かった。
「英会話を習い始めたんだ」
日本通算13年、335試合を投げ抜いたレフティーはストイックでもある。サプリメントに関する知識も独学で習得し、『内臓』面での身体作りのため、定期的に3日間の断食も行う。その間、特性ジュースは口にするが、あくまでも血糖値を下げないためであり、外食でオーダーするメニューも『野菜の量』を気に掛けているという。
「弁えている…」
帰国後、土肥は何度かそんな言葉を口にした。米トライアウト中、ニューヨークメッツで成功した高橋尚成投手(エンゼルス移籍)と「タイプが似ている」との声も伝えられていた。ボールのキレ、コントロール、駆け引きで相手打者を崩すピッチングは、確かに類似する部分も多い。渡米中、土肥は「高橋タイプ」なる日本人メディアの取材に相槌こそ打っていたが、本当は「高橋さんの方が直球のキレは上。自分はもっと頑張らなければいけない」と思っていた。そんな謙虚でひたむきな性格が、トレーニング後の『英会話学習』にも向かわせたのである。
一般論として、150強の直球を投げ続ける投手なら、メジャースカウトへのアピールも簡単だ。しかし、土肥はセットアッパーもこなせる『シチュエーショナル・レフティー』である。満塁の場面を想定し、低めの変化球やチェンジアップで対戦打者を崩す投球術を米トライアウトで披露していた。
「縫い目の高いメジャー球が合っていた」とも伝えられたが、トライアウト前、感触や湿度、手の渇き具合、ロージンを付ける量の加減など何パターンもテストし、短期間で適応させたのが真相である。
野球に対する貪欲な姿勢は、並大抵ではない。2011年、新しいステージのために。今はその『大いなる助走』と言ったところだろう。(一部敬称略/スポーツライター・美山和也)
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