大阪組は、この件で柿沢幹事長の辞任を求めたが、柿沢氏は拒否、松野頼久代表も柿沢氏の擁護に回ったため、党内に大きな亀裂が走ることになった。
騒動は、橋下氏から送られてきたメールが両院議員懇談会で読み上げられ、いったんは収まったかに見えた。メールには、以下の4点が示されていた。(1)柿沢幹事長は辞任しない、(2)公開討論会は開催しない、(3)今、党が割れるようなことはしない、(4)橋下市長と松井知事は、維新の党を離れて大阪、関西の地方政治に集中する。
党の分裂は、橋下氏と松井氏が国政から身を引くことで回避されたようにみえたのだが、翌日、橋下氏は、大阪維新の会の仲間とともに国政政党を立ち上げると宣言し、東京組に宣戦布告をした。
なぜ大阪組と東京組がここまで深刻な対立をしているのか。新聞報道では、“野党連携を模索する東京組と与党との連携を目指す大阪組”という解説になっている。それはそうなのだが、本質的な対立は、ハト派の東京組とタカ派の大阪組の対立だ。維新の党は、行革、小さな政府を追求するという路線では一枚岩だが、安全保障観では真逆の議員が同じ船に乗っているのだ。
民主党や社民党などのリベラル派と安全保障観が近い東京組に対して、大阪組は安倍総理の考えに近い。
だから、今回の分裂騒動に官邸が一枚かんでいる可能性は十分あると、私は考えている。安倍総理はすでに安全保障関連法案を成立させた後を睨んでいる。それは、自らの任期中の憲法9条改正だ。憲法改正には3分の2以上の国会議員の賛成が必要で、そのためには維新の党の協力がどうしても必要になる。ところが、いまの維新の党は、松野・柿沢という東京組、つまり平和主義のグループが支配しているから、とても協力は得られない。
だったら、国民に人気のある橋下氏をスピンアウトさせ、来年の参議院選挙で一定の勢力を確保してもらいたい。参議院選挙に新党で臨むためには、いろいろと準備をしなければならないことが多いから、いまが橋下離脱のギリギリのタイミングだったのではないか。柿沢幹事長への激しい非難は、分裂を正当化するための茶番だったのではないだろうか。
いずれにしても、橋下氏は12月に政界を引退すると宣言し、今回は、党を守るために身を退くと言いながら、最後に国政政党の立ち上げ宣言だ。そうまでして政権にすり寄りたい理由は、権力が欲しいからとしか思えない。憲法改正が実現したら、橋下新党は自民党に吸収されるだろう。そして憲法改正に大きな貢献をした橋下氏は、重要ポストを与えられ、やがて最高指導者になるかもしれない。彼の大好きな“独裁”が手に入るのだ。