たとえ旬のものとはいえ、サンマ、サバ、イワシ、サケ、スルメイカなどには寄生が多い。アジやカツオへの寄生も確認されている「アニサキス」の場合は、人間の胃や腸の中で暴れ回り、歯を突き立てて胃の粘膜に入りこむ。激しい腹痛や嘔吐を起こすだけではなく、腸粘膜を突き破られ、腹水が溜まって腸を切除しなければならなくなったケースもあるという。
「『アニサキス』は、胃に入り込むと、多くは6時間ほどで激しい腹痛を起こします。噛みつかれた痛みよりもアレルギー反応によるものが多く、最初はこれといった症状がでませんが、2〜3度入り込まれると発症することが多い。内視鏡で取り除く治療も行われますが、腸までは入り込まれると厄介。腸閉塞を起こし、腸を切除しなければならなくなります」(東京医療センター総合内科担当医)
『アニサキス』は、イトミミズに似ており、肌色に近い透明で体長は2〜3ミリほど。肉眼ではなかなか発見できず、主に魚の内臓に寄生している。
「不慣れな人が魚をさばくと、この寄生虫は内臓を取り除く際に逃げ出し、身の方に移動してしまう。そのため、家庭などで魚をさばくとリスクは高くなります。醤油や酢、ワサビなどでは死にませんので、徹底するなら加熱処理するか、マイナス20度で24時間冷凍したものを食べるしかありません」(寄生虫予防衛生専門家)
かと言って、冒頭のようにスーパー等で購入した刺身に寄生虫がいて食中毒に冒されたのでは身も蓋もない。どのような心構えが必要なのか。
こんな体験者がいる。某大手スーパーで刺身を買ったところ、蛆虫を小さくしたような虫がいたので、店員にクレームを付けた。ところが魚屋の店員は「食べられるムシなので大丈夫です。新鮮な物に付きますが心配いりませんよ」と言われたが、結局は食べずに捨てたという。
確かに、「虫がいる」と聞いただけで、食べたくなくなる人が多いが、食べても問題が無い場合もある。それでも、専門家はチェックだけはすべきと言う。
「通常スーパーで売っている魚は、寄生虫の有無を予め検査しており、この範囲なら安全と判断をしている。ただ通常、丸ごとの魚の場合は、寄生虫は結構います。腹部に入り込むのがほとんどですから、内臓を取って腹の内側を洗うと大抵取れる。中には骨に刺さっているときもあります。特にイカの足にはシラミと呼ぶ寄生虫が身に付いていることが多い。皮を剥くとほとんど取れるが、皮のない内側にもいますので、チェックが必要でしょう」
前出の医療関係者は、「おそらく、ほとんどの人は虫に当たった経験がないのではなく、(寄生虫に)気付いた経験が無いのだと思う。大抵の場合は病院に行くレベルではないということでしょう」とも言う。
ただし、「アニサキス」は、今年猛暑で海水温が上昇したことにより、魚の餌になるオキアミの分布の範囲や発生状況が変わり、魚に取り付く場合が増えているともいわれる。
必要以上に神経質になる必要はないが、油断できないことだけは頭に入れておくべきだ。