●保守党365議席(+66)
●労働党203議席(-42)
●スコットランド国民党(SNP)48議席(+13)
●自由民主党11議席(-1)
●緑の党1議席(+1)
●その他諸派22議席(-27)
イギリス保守党の党首、ボリス・ジョンソン首相は、今回の総選挙のテーマをEU離脱を意味する「ブレグジット」に絞り、
「Get Brexit Done!(ブレグジットを成し遂げよう!)」
と、2020年1月末のEUからの離脱を公約に掲げた。結果、大勝。保守党が議会の過半数を占めたことから、来年1月末のブレグジットがほぼ確定した。
今回の総選挙で惨敗した労働党は、ブレグジットに対する「曖昧」な態度が響いた。何しろ、労働党の公約は「再度、ブレグジットについて国民投票を行おう」だったのである。これでは、最終的な決断を国民に丸投げしたのも同然で、議会制民主主義の国の政党としては、不適切だったように思える。労働党は、ずばり「ブレグジット反対」を掲げた方が、議席を減らさずに済んだのではないだろうか。
実際、明確に「ブレグジット反対」を掲げた自由民主党は、1議席を減らしたものの、得票率自体は前回の総選挙よりも4.2%伸ばした。
というわけで、イギリス総選挙での勝者が保守党であることは疑いようがないのだが、実はもう一つ勝利した政党がある。SNPである。
SNPは13議席増やし、48議席を獲得。スコットランドの全議席数は59議席であるため、何と8割を抑えたことになる。総選挙の結果は、英国全体では「EU離脱」だったが、スコットランドに限れば「EU残留≒スコットランド独立」というややこしいものだったのだ。
先日の訪英時に、エジンバラで撮った写真をご覧いただきたい。無風状態だったため分かりにくいのだが、3本のポールが建ち、三種の旗が掲げられている。左から英国国旗であるユニオンフラッグ、次に青地に聖アンデレ十字架のスコットランド旗、そしてEUの欧州旗が並んでいる。少なくとも、来年1月末以降は、一番右の欧州旗は掲げられなくなるわけだ。それでは、左のユニオンフラッグはどうなるのだろうか。
新聞など大手メディアでは、SNP勝利を受け「スコットランドの独立」を書き立てているが、話はそう単純ではない。スコットランドの独立派について、個人的に腑に落ちないのは、
「連合王国からの離脱と独立」
を叫びつつ、EUへの加盟を希望している点である。
真の意味で「独立」を望むならば、文字通りの自主独立。安全保障を含むすべての分野について「自国民で成し遂げる」ことを目指すべきではないか。
スコットランドは、北海の資源(石油、天然ガス)や再生可能エネルギー(風力)といったエネルギーが豊富で、食料や飲料といった分野で成功をおさめ、教育、科学技術分野、観光も盛んだ。独立するに十分な経済的基盤を保有している。
というのが、スコットランド独立派の主張なのだが、果たして本当にそうなのか。スコットランドの「スコットランド外への輸出・移出」を見ると、60%が対イングランドなのである(というわけで、スコットランドの「輸出」ではなく「輸出・移出」と表現した)。
また、スコットランド(というか、英国全体)は日本同様に少子高齢化が進んでいる。結果、EU残留派を中心に、「経済成長のためにはEUからの移民が欠かせない」と、どこかで聞いたというよりは「聞き飽きた」理屈を主張する人もいる。
つまり、スコットランド独立派は、
「連合王国からの独立というナショナリズム的なことを主張しつつ、実はEUというグローバリズムへのビルトインを望んでいる」
という、奇妙な状況に置かれているのだ。本件は、2014年のスコットランド独立住民投票の際にも「奇妙な話」として、本連載で取り上げた記憶がある。
本来の意味で「独立国」とは、防衛面を含めて「自国で安全保障を確保する共同体」でなければならない。もちろん各種の「軍事同盟」により、防衛安全保障のすべてを自国で賄う必要は必ずしもない。とはいえ、究極的には「自国で成し遂げる」でなければならない(そういう意味で、我が国は真っ当な独立国ではない)。
何しろ、同盟相手とはいえ「外国」であることに変わりはないのだ。同盟相手国の国益と、自国の国益が衝突することは、これは普通に起こりえる。
例えば、スコットランドが本当に独立したとして、「対イングランド戦争」が勃発しないという保証はない。そもそも、現在のイングランド王国成立(1066年のノルマンディー公ギヨーム二世のイングランド王国征服)以降、スコットランドは度重なる「南からの侵略」に苦しめられることになった。
イングランドとスコットランドは、1707年の合同法以降「連合王国」として、度重なる戦争を勝ち抜いてきた。それでもなお、スコットランド人は連合王国とは「別の国」であることを望むのだろうか。
少なくとも、イングランドとスコットランドが「建国史」を共有していないことは確かだ。スコットランド建国は、アルバ王国の発足(843年)とされているため、むしろ現イングランド王国よりも建国時期は早い。
建国の歴史が異なるために、スコットランド人は永遠にイングランド人と「ナショナリズム」を共有できないのだろうか。分からないが、スコットランド問題は、国家やナショナリズム、グローバリズムについて、改めて考える機会を与えてくれたのは確かだ。
日本国民は、現在「建国史」を失った状況にある。建国史というメモリーを共有しない我々が、このまま「日本国」を健全なナショナリズムの下で維持できるのだろうか。スコットランドとイングランドの対立を知ると、不安にならざるを得ないのである。
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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。