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実話怪談『幽霊のいる旅館』

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画像はイメージです。

 E子さんが九州の山奥の秘湯に行ったときに体験した出来事である。

 友人と二人で潰れかかった温泉宿に宿泊することになった。

 粗末な家屋はいつ傾いてもおかしくない状態で、窓からは山々が望める。

 これらの自然は、秘湯という演出にはもってこいの舞台装置にもなっていた。

 「こういう部屋の趣がいいのよね」

 「そうよね。まさに隠れ家って感じかな」

 友人と一緒に部屋でくつろいでいると、部屋を間違えて老婆が入ってきた。

 最近では珍しい、えらく腰の曲がった老婆である。足取りも弱々しい。

 部屋の半ばまでくると、老婆は二人の顔を不思議そうに見つめた。

 「おばあちゃん 部屋間違えているよ」

 二人は吹き出しながらも、老婆にやさしく言った。

 「ああ、そうかね。ごめんなさいね」

 老婆はにこにこ笑いながら廊下に出ていった。

 「かわいいおばあちゃんね」

 「そうだね、なんかちっちゃくてかわいいね」

 E子と友人は微笑ましく思った。

 自分たちの祖母と、老婆の姿がだぶったからである。

 そこに初老の旅館の番頭さんらしき人物が挨拶にきた。

 小綺麗な和服の出で立ちは老舗旅館に相応しい。

 お湯の効能や、周辺の史跡などの話を番頭がしてくれた。

 二人が思わずさっきの愉快なエピソードを披露すると、番頭の顔色がみるみる青く変化した。

 「はあ…また出ましたか」

 番頭は、ぽつりとつぶやいた。

 話を聞くと、この旅館で療養中に亡くなった老婆の幽霊が、度々出ては宿泊客を脅かしているのだという。

 「ええっ、まさか」

 騒然となるE子と友人。

 しかし、もう既に夕方も近く、周辺には代わりの宿もないようだ。

 とりあえず温泉に入って、眠ろうという事になった。

 すると風呂の入口で、またあの老婆とすれ違ったのである。

 「あのおばあさん、さっきのおばあさんだよね」

 「そうよ、番頭さんが話していたあの幽霊よ」

 二人は怖くてお風呂も入らず、ぶるぶるふるえながら、二人身を寄せあって朝を迎えた。睡眠不足で頭が痛い。

 早々にチェックアウトしようとフロントに向かった二人の前に、昨夜の老婆が現れた。

 「お二人さん、昨日はごめんなさいね」

 老婆の笑顔がまぶしい。どうみても、生きている。

 しかも、二人と同じようにチェックアウトの準備をしているのだ。

 「幽霊がチェックアウトするわけないし、これってどういう事?」

 素っ頓狂な声をあげた二人のもとに、宿のおかみさんが近づいた。

 「いやですよ。お客様、こちらのおばあちゃまも同じお客様ですよ」

 「ええ!!」

 「勿論、幽霊なんかじゃありませんよ」

 二人は仰天した。

 「だって昨日、番頭のおじさんが幽霊と説明したでしょう」

 二人がそう言うとおかみさんの顔色がすっと変わった。

 「また出ましたか。あの番頭は幽霊好きでね。よく生前はそうやって若い女性のお客さんをからかってたんですよ」

監修:山口敏太郎事務所

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