外形標準課税とは、企業が黒字か赤字かに関係なく、給与総額などの事業規模に応じて支払う税金のことで、'04年度から資本金1億円超の大企業が支払う法人事業税の計算に導入されている。
現在、電力会社等を除く一般の大企業が支払う法人事業税の総額は2.8兆円だが、そのうち2.2兆円が法人税と同じ所得割(利益に税金がかかる)で、0.4兆円が付加価値割(付加価値に税金がかかる)、そして0.2兆円が資本割(資本金の額に税金がかかる)となっている。税率は、それぞれ7.2%、0.48%、0.2%だ。
例えば、法人事業税のうち所得割の比率を半分に下げるとすると、1.4兆円を所得割で徴収すればよいから、税率は現在の7.2%から4.6%となる。単純計算で、法人税の実効税率を2.6%下げることが可能になる。
一方、外形標準課税の方は、現在の0.6兆円から1.4兆円へと税収を増やさなければならない。しかも、資本割は廃止する方針のようだから、現在0.4兆円の付加価値割を1.4兆円へと、3倍以上に増やさないといけなくなるのだ。
そうなると法人事業税の付加価値割の税率は、現在の0.48%から1.68%に上昇することになる。
課税基準となる付加価値は、厳密に言うと、報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益で計算される。つまり、来年度から、赤字企業でも人件費や家賃や支払利子の1.68%程度の税金を納めなくてはならなくなるのだ。赤字企業はそんな税金を支払う余裕はない。しかし、どこからか金を借りてきたり資本を食いつぶしてもいいから、とにかく税金を払えという制度なのだ。
こうした税制が導入されると何が起きるのか。それは、確実に税金倒産が起きるということだ。そして、それこそがアベノミクスの狙っている外形標準課税の効果なのだ。
2012年の日本企業のROE(自己資本利益率=株主資本に対する当期純利益の比率)は、3.8%だが、アメリカは10.5%、欧州は8.9%となっている。欧米と比較して低いROEを高めるためには、利益率の低い企業を片端から潰してしまえというのが、成長戦略の本質なのだ。
経済学では、これを「清算主義」と呼んでいる。弱い者は切り捨て、強い者だけを生き残らせる。そうすれば、全体がよくなるという。とんでもない勘違いだ。
確かに、儲かっている企業だけを生き残らせれば、全体の利益率は上がるだろう。しかし、それは社会の多様性を失わせることにつながる。
例えば、各業界のトップだけを生き残らせれば、利益率は上がる。しかし、例えば自動車はトヨタしか選べない、家電はパナソニックしか選べない。そんな社会が果たして豊かな社会と言えるだろうか。
韓国は、'97年の金融危機以降、サムスンやヒュンダイに事業を集中させた。それで国際競争力は大幅にアップしたが、韓国国民が幸せになったのかは大きな疑問だ。大企業躍進の裏側で、仕事を失った大量の中小企業があるからだ。