民事再生手続き中の同社は5月29日、国内投資ファンドのインテグラルや全日本空輸(ANA)を傘下に置くANAホールディングスなどをスポンサーとする再建策を東京地裁に提出した。ところが同日、大口債権者の米航空機リース会社イントレピッドが、スカイマークとは別の再建案を東京地裁に提出したことが明らかになったのだ。
これだけでも異例の展開である。市場関係者がさらに目を剥いたのは「ANAを事業スポンサーとする提案には反対」と表明、「他のエアラインを支援企業(スポンサー)とすべく選定作業を進めている」と“反ANA”の態度を鮮明に打ち出したことだ。
イントレピッドは意中の航空会社を明らかにしていないが、関係者は日本航空(JAL)と信じて疑わない。JALは一時、スカイマーク再生の本命候補に挙がったものの「自民党航空族の横ヤリ介入で脱落し、代わってANAが躍り出た」(情報筋)経緯がある。イントレピッドは、その蒸し返しを仕掛けたと理解すれば話が早い。
ANA主導での決着を狙う国土交通省にとって悩ましいのは、スカイマークの債権約3089億円のうちイントレピッドが全体の37.2%に当たる1150億円を占め、最大の大口債権者であることだ。さらに、悩ましいという点では欧州旅客機大手エアバスも負けていない。スカイマークは同社に世界最大の旅客機『A380』を発注したもののキャンセルとなり、エアバスから損害賠償を請求されている。その債権額は届け出ベースで約880億円と、債権者の第2位に当たる(全体の28.5%)。
エアバスもスカイマークが示した再建案には難色を示しており、関係者は「もしイントレピッドとタッグを組めば厄介なことになる」と警戒する。両社の債権額をトータルすると2030億円に膨らみ、債権総額の実に65.7%を占めるのだ。
スカイマークは7月に開催を予定する債権者集会でANA主導での再生案の承認を目指しているが、そのためには債権者の過半数の同意が欠かせない。ところが、もし1位・2位連合が結成されれば、計画は呆気なく崩壊する。
なぜ大口債権者はそろいもそろってANA主導での再生に難色を示すのか。
「ともに海千山千のツワモノだからは簡単には腹の内を明かしませんが、スカイマークの破綻で被った損失をANAとのビジネスで穴埋めしようと考えたようです。ところがANAから期待した答えが返ってこない。これにシビレを切らしたイントレピッドが『それならこちらにも考えがある』とばかり、独自の再生案を出してけん制した。エアバスに対し、1、2位連合軍結成に向け水面下で猛アタックしているようです」(外資系証券アナリスト)
二つの再生計画案を受け取った東京地裁も対応に苦慮しているようだ。前代未聞のケースとあって独自の判断を下せず、債権者集会に二つの計画案が討議される可能性さえ取り沙汰されている。そうなれば恥の上塗りならぬ、重ねての異常事態だ。たとえ地裁がスカイマークによるANA主導の再生案を支持したとしても、債権者集会で否決されればメンツ丸つぶれとなるからである。
実はイントレピッドが密かに推すJALに対し、ANA主導の再生推進派は以前から神経を尖らせてきた。再生案による出資比率は投資ファンドのインテグラル50.1%、ANAホールディングス16.5%、日本政策投資銀行と三井住友銀行が折半出資する投資ファンドが33.4%を出資する方針。ことその限りでは、JALをはじめイントレピッドが唱える「他のエアライン」が付け入る隙など全くない。
ところが航空ウオッチャーは「スカイマークの株が再建半ばで他の航空会社に売却されれば主導権を奪われるとして、国内外の航空会社への株式売却を禁止する旨を決めた」と証言する。ここにいう主導権奪取の“仮想敵”が、一時は支援企業の本命と目されたJALを指すのは明らかだ。
「出資(予定)社間の都合のいい取り決めなど、簡単に外部へ漏れる。だからこそANAとの商談を有利に進めたいイントレピッドは、これを逆手にとって“ANA外し”の必殺技を繰り出した。それどころか、こんな禁止条項を決めたこと自体、ANAが他の出資メンバーによる抜けがけを恐れている証拠です。本心では仲間を信じていない以上、どこで裏切りに遭ったとしても不思議ではないし、文句も言えませんよ」(前出・ウオッチャー)
イントレピッドが“難敵”とみなしたスカイマークとANAは、エアバスの説得に全力投球の構え。その媚薬がどこまで効くか、債権者集会で明らかになる。