しかし、供給力の約8割を占める火力発電は老朽化が目立ち、いつトラブルに見舞われてもおかしくない状況に変わりはない。それでも政府は、想定外が起きない限り心配ないと“お墨付き”を与えた格好だ。
新電力関係者は「戦時中の大本営発表と同じで、額面通りに受け止めたら大変なことになる」と警告する。
政府は全国平均の予備率を7%と見込んでいるものの、現実には電力会社で大きな開きがある。とりわけ東日本大震災前から原発依存度が高かった関西電力と九州電力は予備率3%確保が精いっぱい。それも設備に比較的余裕がある中部電力と中国電力から融通を受けてのことで、それらがなければ関電は0.8%、九電に至ってはマイナス2.3%になる。
頼みの中部、中国電力にしても予備率に余裕があるわけではない。辛うじて10%を上回っているのは東京電力と四国電力だけ。これで日本列島が記録的猛暑となり、もし各火力発電所でトラブルが頻発すれば綱渡りの供給が行き詰まって大規模停電地獄に直面する。
むろん、そんな可能性など政府=経済産業省は先刻承知している。それにもかかわらず、なぜ数値目標の設定を見送ったのか。
「役所は前例を踏襲する悪癖がある。今年だけ数値目標を定めるには、説得力のある根拠を示す必要があります。減点主義に染まった役人が、そんなリスクを取るわけがありません」(前出の新電力関係者)
気象庁は今夏の猛暑を予想している。ならば、電力需要が急増し停電パニックが現実味を増す。そこで密かに囁かれているのが政府の陰謀説だ。数値目標を定めないほど電力に余裕があると安心感を与える一方、停電列島に陥れば「だから原発は必要不可欠だ」と国民の多くが受け止める。それを狙っての陰謀ではないか−−との“怪説”だ。
説得力があり過ぎて怖い。