まず正恩氏の実妹・金与正(キム・ヨジョン)党宣伝扇動部第1副部長は、平壌空港で党幹部と並び習氏を迎えた。列の7番目だ。その右隣は、米国との対話を担ってきた金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長だった。そして与正氏の次は金秀吉(キム・スギル)人民軍総政治局長だった。この順番が要注目だ。
「このことから与正氏は、これまでの正恩氏の秘書役から、党幹部と肩を並べて公の場に姿を現したことからすると、その役割が変わったのではないでしょうか。彼女の政治的地位は、むしろ強化された可能性があるのです。その一方で、21日に習夫妻が朝鮮労働党政治局幹部と記念撮影をした際には、その姿はありませんでした」(北朝鮮ウオッチャー)
正恩氏の夫人である李雪主(リ・ソルジュ)氏は、朝鮮民族の伝統衣装「韓服(ハンボク)」をファーストレディーになって以降初めて、公式席上で着用した。
「伝統衣装を通じて『平壌の奥方』という印象を中国側に植え付け、自主独立という北朝鮮のメッセージを送ったのではないでしょうか」(同・ウオッチャー)
正恩氏の愛人だったともいわれる玄松月(ヒョン・ソンウォル)宣伝煽動部副部長は、これまで与正氏の役割だった儀典役を今回、引き継いでいる。ただ与正氏と違い“血のつながり”はないだけに、本格的に儀典役を引き継げるかどうか。
一方、実務を担う3人のパワーエリートはどうか。まず正恩氏直結の女といわれる崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官の地位に変動はない。むしろ上がっているが、与正氏お気に入りのもう1人の女性官僚、金聖恵(キム・ソンヘ)統一戦略室長は、所属する外交の指揮系統から外れたとみられる。ハノイ会談失敗の責任を問われたと分析されている。
「最も悲惨なのは、ハノイ会談の通訳だったシン・ヘヨン氏でしょう。政治犯収容所に送られたという未確認情報が飛び交っていますが、カウンターパートだったビーガン北朝鮮政策特別代表が接触できていないことから、公式ラインから消えたことは間違いないようです」(同)
北朝鮮の人事は織物のように複雑、しかも怪奇だ。