政府は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に「年間訪日客2000万人」の目標を掲げている。JTB予測は、4年前倒しで政府目標を大幅にクリアする。それどころか、日本政府観光局によると訪日客は昨年12月1日時点で初めて1800万人に達し、12月末の段階で早々と2000万人の大台を突破した可能性すらあるという。うち中国人は12月1日時点で約500万人と推定され、わずか1年で倍増となった。
それにしても中国経済の崩壊・失速が公然と囁かれる中、彼らが日本に殺到する理由は何なのか。証券アナリストは「大きく三つある」と指摘する。
「一つは円安で日本旅行の割安感が強まったこと。次いで昨年の1月に政府がアジア各国に対するビザ発給条件を緩和し、何度も入国できるようにして観光客の誘致に前向きになったことが挙げられる。3点目は免税制度を拡充させ、対象品を拡大したことです。これに飛びついた中国の富裕・中間層が日本での爆買いに走った。彼らの本物志向が強まったことで、中国のコピー商品は遠からず見向きもされなくなるでしょう」
訪日客の急増を見越し、その“聖地”ともいうべき東京・銀座界隈では免税店競争が激化している。中国資本に買収されたラオックスは銀座本店、銀座本店EXITMELSAとも中国からの買い物客で溢れているが、すでに爆買いの恩恵に浴している他社も負けてはいない。
ヤマダ電機は昨年4月、隣接する新橋に8フロアすべてが免税店という異例の出店でトラトラ参入した。東急不動産も今年の3月31日、数寄屋橋交差点の角地に開業する『東急プラザ銀座』では、ロッテが消費税だけでなく関税や酒税なども免除する都内最大級の空港型免税店を出店する。
同じく3月末には三越銀座店に三越伊勢丹HDと日本空港ビル(羽田空港の運営会社)、成田空港の免税子会社による合弁会社が空港型免税店を出店する。建て替え中の松坂屋銀座店も、開業する'17年1月には銀座地区で初となる観光バスの乗降スペースや観光案内所を設置、爆買い需要への対応を予定している。
一方、ビックカメラは日本空港ビルとタッグを組み、今年の夏をめどに羽田空港に家電製品が主力の免税店を出店する。こうした動きは東京に限らず、名古屋、大阪、福岡など主要都市に拡大している。
繰り返せば、問題は中国人による“爆買い特需”がいつまで続くかである。外資系証券の投資情報担当役員は「去年の夏に中国政府が打ち出し、世界中のエコノミストが『信じられない』と絶句した異例の株価政策が参考になる」と指摘する。
上海総合指数が大暴落し、中国経済のメルトダウンが現実味を増してきたとき、習近平政権は多くの銘柄の売買停止と、株価の暴落を助長する空売り規制という荒業を駆使して最悪の事態を辛くも阻止したのである。前出の証券役員が続ける。
「中国発の世界恐慌を阻止するためには手段を問わなかったのでしょうが、株の空売り行為が処罰の対象になること自体、先進国では絶対にあり得ません。まして事実上の市場閉鎖は論外です。東日本大震災のとき、証券界の一部に『市場を閉鎖すべし』の強硬論があったのですが、日本はそこまで踏み込まなかった。逆にいうと、習近平政権にとって上海市場での株価ショックは、東日本大震災の比ではなかった。最悪の事態を恐れたから、大国のメンツをかなぐり捨てたのです」
とはいえ、どう取り繕ったところで中国経済が奇跡的に復活する保証はない。中国が対外的に発表するデータにしても「話半分ぐらいにしか受け取らず、眉ツバ視する面々が少なくない」と中国事情に詳しいアナリストは打ち明ける。だからこそ、習近平政権が上海市場で駆使した荒業を日本での爆買いに振り向けかねないリスクを警戒し、こう指摘するのだ。
「多分、今年は1000万人の大台に迫る中国人が日本に殺到し、高額商品を猛然と買い漁るでしょう。それだけの国民が日本にカネを落とせば、中国経済は確実にブレーキがかかる。もし危機的レベルに落ち込んだ場合、習近平政権は『買い物は中国でせよ。もう日本には行くな』と厳命しないとも限りません」
これが杞憂に終わるか、それとも上海の荒業再現か。日本を席巻する爆買いのキーマンが習主席であるのは間違いない。