「それまで、『湾岸戦争』という言葉があるくらい、ベイエリアでは超高層大規模マンションの開発ラッシュが続いていました。現在のところ幻となっている東京オリンピックを当て込んだ業者もあったと聞いています。しかし、先の震災によって激しい揺れを経験した。その恐怖もさることながら、停電によってエレベーターが使えなくなった高層階の住民は大変な不便を強いられました。高層マンションはもう懲り懲りだという人も少なくありません」
こう語るのは、住宅ジャーナリストだ。
超高層マンションはオール電化の物件が多いため、計画停電による生活の不便も想像を絶するものがあったという。非常用の電源が作動したり、自家発電装置が設置されているマンションはいいが、そうではない所は停電する度に階段を上り下りしなければならなかった。
昨年の首都圏マンション市場は、震災の影響でベイエリアの人気を一気に急落させた。
「昨年上期の発売戸数は前年同期比9.8%減の1万8198戸となり、2年ぶりに前年を割り込みました。これは、リーマンショックで急減した'09年の1万5888戸に次ぐ低い水準です。住宅市場は、金融危機で落ち込んだ市況が順調に回復し、実は昨年、もし震災がなければブームが発生するほどの好況でした。ところが東京でも深刻な被害が生じ、異変が起きているのです」(同氏)
長谷工総合研究所によると、2011年の都内23区の新築分譲価格は2.9%の下落にとどまったが、江東区の新築平均価格は同年2月に5459万円だったのが、現在は1000万円近く下落しているところもある。
中古マンションとなると、その傾向はいっそう顕著になる。
「不動産流通機構のレインズによると、湾岸の中古の平均価格は'11年4月が平米当たり81万円だったのが、73万円になっている。なかには30%下落した物件もあります。つまり、新築で4000万円だった物件が2000万円台になったということです」(江東区内の不動産業者)
そんな中、マンション選びのポイントも、「立地や周辺の環境よりも地盤の固さや耐震設計を重視する購入者が増えた」(都内某不動産業者)という。
「震災後、毎日のように観せられたテレビの津波の映像は、住宅購入希望者の意識を完全に変えました。東京都も地震学者も、東京湾は津波の心配は無いと言いますが、実はあの震災で富津には3.6メートルの津波が押し寄せ、湾奥の葛西の臨海水族園では2.6メートルを記録している。三陸で発生した津波は房総半島でブロックされましたが、さらに南方で津波が発生すれば東京湾を直撃する可能性もある。となると、東京にも巨大津波が急襲するかもしれないのです」(サイエンス誌記者)
もし巨大津波が押し寄せれば、江東、江戸川、墨田、葛飾の4区の海抜ゼロメートル地帯は水没するといわれている。液状化の不安に加え、こうした津波の心配から、ベイエリアを離れて内陸部へと移住する都民が相次いでいるのだ。
「そこで今は、いざというときに徒歩での帰宅が可能な、オフィス街に近く地盤が安定しているマンションが人気を集めています。一方、帰宅困難な郊外物件や液状化が見られた臨海部、上層階の大きな揺れやエレベーター停止のリスクがある超高層マンションに対して、懸念の声も聞かれます」(住宅ジャーナリスト)