このソフトが搭載された車は、米国で50万台、全世界では1100万台にのぼり、VWは改修費用に9000億円、そして米国政府からの課徴金で最大2兆円の支払いが見込まれるという。この事件を受けてVWは会長の辞任を発表したが、この事件の影響は、自動車産業の地図を塗り替えてしまう可能性を孕んでいる。
不正ソフトを搭載したVWのディーゼル車は、日本には1台も正規輸入されていない。その理由は、日本ではエコカーの代表がハイブリッド車だということだ。ディーゼル車もハイブリッド車なみの低燃費なのだが、窒素酸化物や煤塵を出すことで、日本では好まれていない。
一方、ヨーロッパではエコカーと言えばディーゼル車で、そのシェアは50%を超える。排ガスに関しても、フィルターや触媒の技術が向上したため、「クリーン・ディーゼル」が実現し、問題がないとされてきたのだ。
しかし、浄化装置を動かすと車の燃費を悪化させ、馬力が落ちてしまう。そこで、世界で最も厳しい規制を行っている米国の基準をクリアするため、不正が行われたのだとされてきた。
しかし、事態はさらに深刻だった。米国よりも窒素酸化物の排出規制が4倍も緩い欧州でも、不正ソフトを搭載した車が販売されていたのだ。
つまり、VWのディーゼル車は、まったくクリーンではなかったのだ。
さらに疑惑は、他社のディーゼルエンジンにも広がっている。VWがクリアできなかった排ガス規制を、他のメーカーが簡単にクリアできたとは思えないからだ。
実は、VWの事件が発覚する前、私が驚いたニュースがあった。それはベンツとBMWがプラグイン・ハイブリッド車を今年から日本市場で発売したことだった。日本では当たり前のハイブリッド車だが、欧州ではほとんど売れていない。
ディーゼルエンジンで低燃費は実現できるし、技術の蓄積もある。加えてハイブリッド車は高度で繊細な技術を必要とするため、欧州メーカーが本気で取り組んでこなかった。
それが最先端のプラグイン・ハイブリッド車を発売するというのは、「ディーゼルが危ない」ということを認識していたからではないだろうか。
私は、今回のVWの事件を受けて、日本の自動車産業に大きな追い風が吹くのではないかと考えている。ハイブリッドエンジン技術の熟成には、長い時間がかかる。トヨタのプリウスが誕生したときの燃費は、必ずしも良くなかった。それを15年の年月をかけて、日本は磨き上げてきた。ディーゼルの信頼を揺るがせた事件は、ドイツの自動車産業、さらにはドイツ経済全体を揺るがすのではないだろうか。