この通称“上海ヒルズ”は、資金不足による工事中断もあって、進出決定から開業までに15年を費やしたことから総事業費は当初予定を500億円も上回った。前述したように昨年3月期の純利益が70億円に過ぎない同社にとっては、ズッシリ重い返済負担である。果たせるかな、同社は開発資金の早期回収を狙って昨年から恥も外聞もない一部フロアの売却に踏み切っており、今後とも「切り売りセール」を加速させるという。
六本木ヒルズも、今や地に堕ちたといえるだろう。そもそも、開業翌年の3月に世間の耳目を集めた回転扉の事故死がケチのつき始めだ。その後、入居していたライブドアの“ホリエモン事件”が火を噴いたと思ったら、グッド・ウィル、リーマン・ブラザーズ証券など有力テナントのスキャンダルや倒産でブランドイメージが失墜、揚げ句に「彼らと一緒にされてはたまらん」とばかり、楽天がさっさと逃げ出した。芸能界の恥部をさらした押尾学事件の追い打ちもあり、今や“訳アリ物件”の様相を呈しているのだ。
「当然、銀行は警戒心を抱く。これまでは森稔会長の信用があったから下手なアクションを起こしませんでしたが、今後は違う。大胆な荒療治を行う前に強力な後ろ盾を失い、債権回収に目の色を変える銀行と対峙する羽目になった辻社長はたまったものじゃない。多分、修羅場の連続でしょう」(メガバンク関係者)
注目すべきは森ビルが抱える有利子負債だけではない。前述したように再開発では特別目的会社(SPC)を活用した手法が主流になっており、森ビルも近年はこれと銀行融資を併用している。しかし、連結対象に組み込まれていないことから公になっていないSPCの負債は「推定1000億円前後」(市場関係者)とされる。それが表面化すれば、ただでさえ借金にドップリ浸かった森ビルの有利子負債は一気に膨らむ。むろん、年間利益で返済できるほど生易しい金額ではない。
「いくら森ビルが都心の一等地に優良資産を抱えているといっても、これを叩き売れば凌げるほど甘くはありません。だからこそ借金の圧縮が至上課題だったのです。4年前に優先株を発行して銀行から1100億円を調達したのもその一環ですが、来年夏には配当率が引き上がることも辻社長には頭が痛い。これに代わる資金調達先をどうするか。厄介な案件が目白押しの矢先にオーナー会長が亡くなったことで、森ビルの迷走は決定的になります」(前出のメガバンク関係者)
森ビルには“別働隊”として不動産投資ファンドがある。その投資マネーの実態は明らかになっておらず、これで本体に火がつけば負の連鎖に直結するのは間違いない。
森ビル王国の崩壊に向け、不吉なカウントダウンが始まったようだ。