原発の事故処理で苦境にあえぐ東電に対する政府のシナリオは、1兆円超に及ぶ血税をカンフル注入し、議決権ベースで3分の2以上の株式を取得すること。経営介入を強化し、「発送電分離」など、電力改革を推し進めようというものだ。
ところが、経営の自由度を確保したい東電は、議決権のない優先株を組み合わせることで、何とか政府出資を3分の1に収めたいとしている。政財官の“応援団”もこれに加わって、国有化の旗振り役を務める枝野幸男経済産業相と壮絶なバトルを演じているのだ。
鞘当て合戦があったのは2月13日。枝野経産相は公的資金を投入する条件として「資本注入額に照らして十分な議決権を」と、実質国有化を東電の西沢俊夫社長に求めた。血税は受けても経営権を手放す考えなどサラサラない東電は、いきなり最後通告を突きつけられたのである。
これに経団連の米倉弘昌会長が「原発事故の賠償は国が前面に出てやるべきで、東電の国有化はとんでもない勘違いだ。国有化してちゃんとした経営になった会社は見たことがない」とかみついた。米倉会長は天災などによる原子力災害では、国が被害者保護に必要な措置を取ると定めた原子力損害賠償法に従うべきだと、従来の主張を繰り返し、返す刀で枝野経産相を名指しして「彼はそれを曲げて曲げて、曲げ抜いてやってきた」と斬って捨てた。
むろん、ケンカを売られた枝野経産相も黙っていない。すかさず「(破綻リスクにさらされている)東電は純粋な民間会社とは思えない」と反論、続けて「国に資本注入を求めず、経団連が金を集めて資金不足を補っていただければありがたい」と皮肉った。
「ご両人の“口撃”合戦は今に始まったことではありません。米倉さんは枝野さんが去年の9月に経産相に就任したとき、菅内閣の官房長官時代に原発事故の賠償支援をめぐって銀行に債権放棄を求めたことを批判、『もっと経済を勉強すべきだ』と言い放った。これに枝野さんが猛反発した経緯があり、今度もまた双方が感情むき出しになっているのです」(経済記者)
財界のドンと東電を所管する担当大臣が、こうまでして口角泡を飛ばす理由は明白だ。原子力損害賠償支援機構が「総合特別事業計画」をまとめるのは来月の3月。その根幹を成すのが、先にも述べた政府の議決権ベースでの出資比率である。従って枝野経産相の思惑通り、政府が3分の2超の株式を取得すれば合併、解体など重要事項の決定権はもちろん、取締役の総入れ替えも可能となる。
東電関係者によると、当初は「3分の1が限度。それ以上はのめない」と主張していた強硬派も、大幅な赤字決算で債務超過が現実味を増してきたいま、「3分の2はともかく、政府が過半数の株式を握ることを容認せざるを得ない」と、にわかにトーンダウンしているという。
枝野経産相のニンマリ顔が目に浮かぶようだが、実は政府とて一枚岩ではない。東電を国有化すれば、政府は「実際は5兆円超」(情報筋)とされる原発の廃炉負担や住民への賠償責任を負うことになる。国家財政が巨額の赤字続きで悲鳴を上げている中、財務省は「政府が率先してリスクを取る必要性はない。50%未満でも十分」との牽制球を投げつけた。