1月14日、15日と連続してルノー株が大暴落したため、そんな聞き捨てならない観測が市場で飛び交っている。
事の発端は1月7日、仏経済産業省がディーゼル車の排ガス不正問題に関連して、ルノー本社や研究施設などを立ち入り調査したことだ。世界を震撼させたフォルクスワーゲン(VW)の不正発覚を機に、当局がルノーにも疑惑の目を向けた図式である。
しかし、VW騒動の二の舞いになることを恐れたのか、その時点でルノーは当局による調査着手を公表しなかった。ルノーの労働組合が14日になって現地メディアにリークしたことから会社側がようやく追認し、これを機に株式市場がパニックに陥ったのだ。
ルノー株は2日間で23%も売り込まれた。すかさず反応したのが同社株の19.7%を保有する筆頭株主の仏政府である。時価総額にして1500億円近い金額が消滅したのだから無理もない。そのため、昨年末まで「春には買い増した約5%の株を売却する」と公言していたマクロン経済相は「納税者に損失となる水準では売却しない。通常の価格に持ち直したら売却する」と前言を訂正した。
これがナゼ陰謀ウンヌンと囁かれているのか。
昨年12月11日、仏政府とルノー及び日産自動車は、仏政府が日産(ルノー43.4%出資)の経営に介入しないことで合意した。日産のルノーへの出資比率は15%(フランスの会社法の規定で議決権なし)だが、もし不当な介入を受けた場合、日産はルノー株の25%以上を買い増すことができる。結果、日本の会社法の規定で日産に対するルノーの議決権は消滅する。
要するに、仏政府がルノーを介して日産への影響力を行使できないよう、一種の“不可侵条約”を撤廃させたのだ。
「ルノーは経営不振に陥っていた日産へ出資し、持分法適用会社に組み込んだのですが、いまや立場が逆転し、ルノーは業績が回復した日産の寄生虫と化している。そこで仏政府は、日産を子会社化すればルノーの好決算につながり、雇用を確保し、株主は高額配当にありつけると考えた。ルノーだって政府の傀儡会社にはなりたくない。だからこそ去年の4月以来、協議を重ねて政府の経営介入を排除することにやっとこぎ着いたのです」(担当記者)
その際、仏政府は今年4月に開くルノーの株主総会を機に、発言権を増すべく買い増した19.7%の株式保有比率を15%に戻すと表明していた。だが、株価暴落ショックでマクロン経済相は“継続保有”に含みを持たせたのだ。
「奇妙なのはVWの不正発覚後、ルノーは仏エコロジー省独立調査委員会の調査を受けており、担当大臣は地元メディアに対し『排ガス数値は基準より高いものの、不正なシステムは見つかっておらず、株主と従業員は不安に思わなくてもいい』と説明した。それなのにあらためて立ち入り調査を受け、これを機に株価が大暴落した。うがった見方をする向きはルノー・日産へのしっぺ返しをもくろむオランド政権が、ルノー揺さぶりの一環として株価暴落=株式売却の見合わせを画策したのではないかと囁いています」(関係者)
仏政府は一昨年春、2年以上保有する株主の議決権を2倍にする新法『フロランジュ法』を制定した。これにより今年の4月には、仏政府のルノーへの出資比率が28%程度まで高まることが決まっている。一方、ルノーに15%出資する日産の議決権は認められていない。だからこそ昨年4月以来、仏政府の影響力排除に向けて水面下の協議が続けられ、前述したように昨年暮れに決着した経緯がある。前出の関係者が続ける。
「これで4月の総会までにルノーの株価が回復しなければ、仏政府は5%分の売却を見合わせるだけでなく、法律を盾に28%の議決権を行使するでしょう。そこで日産の買い増しカードを念頭に『外国の法律はフランスに適用できない』と法改正すれば、ルノーを介した“日産支配”が実現する。議決権2倍というとんでもない法律を編み出したオランド政権のこと、奇策の連発もあり得ます」
カルロス・ゴーン日産社長(ルノーCEO)と仏政府の関係が相変わらずギクシャクしているのも、日産には悩ましい。追い打ちを掛けるように日産は昨年の米電気自動車(EV)市場でトップの座から転落、テスラモーターズの後塵を拝した。原油安がEVには逆風だったとはいえ、日産とは対照的にテスラはシェアを伸ばしているのだから皮肉である。
オランド政権には、これもゴーン社長の失点と映る。だからこそ証券アナリストは「ルノーの4月総会が不気味。日産の命運を決しかねません」と警告するのだ。