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夜を棄てたキャバ嬢たち〜客と共に東京を去る阿弥〜

 都会の雑踏から遠く離れて、どこか自然に囲まれた場所で静かに暮らしたい。そう考えてしまうのは、欲望が渦巻く夜の世界にいる嬢達の中にも多い。阿弥(仮名・23歳)もまた仕事で精神をすり減らしていくうちに、いつしか静かな暮らしを求めるようになっていた。

 「私は北海道札幌出身といっても、実家は繁華街から遠く離れた閑静な住宅地です。東京へ来てから何年も経ちましたが、いまだに人の多さには慣れませんね」

 阿弥は高校を卒業後、まもなく北海道から上京。美容専門学校のネイルコースに2年間通い、ネイル店へ就職。しかし職場の空気に馴染めなかったことからわずか数か月で退職し、そのままネットの求人サイトで見つけたキャバクラ店へ飛び込んだ。ネイリストの道はすっかり諦め、他にやりたいこともなかった彼女は、その場繋ぎという気持ちでキャバ嬢として働くことになる。

 「最初は次の仕事を見つけたらすぐに辞めるつもりだったんです。でも気が付いたらダラダラと2年も働いてましたね。専門時代の友人とも疎遠になり、店の外で恋人が出来ても長続きしない。だんだんと自分が何のために東京にいるのかが、わからなくなっていました」

 東京での生活に限界を感じていた頃、阿弥が新人の時から定期的に通ってくれる客と急接近することになる。その客は他の男達のように、必死に口説いてきたり、大金をちらつかせるようなことは一切なかった。いつも自然な立ち振る舞いを見せる男に対し、阿弥はいつしか心を開くようになる。そんなある日、その客が今年中に仕事を辞めて実家の沖縄に帰るということを阿弥に告げた。

 「“一緒に私も帰りたい”。そう最初に言った時は冗談のつもりだったんです。でも彼が取り出した沖縄の青く透き通った海の写真を見た瞬間、自分がそこでのどかに暮らす風景を思い浮かべてしまって…」

 そこから2人の関係はスムーズに進む。店の外でもデートを重ね、客と嬢から恋人関係に発展した2人は、共に沖縄で生活していくことを決意する。

 「行ったこともない遠く離れた地で、共同生活だなんて考えが甘いと思われるかもしれない。でももし彼とうまくいかなくなったとしても、東京に戻ってくるつもりはないですね。もう都会での生活はコリゴリ。海に囲まれた沖縄で、静かに自分の生き方を見つけるつもりです」

 今年、北国育ちの阿弥は南国の地へ向かう。現在は引越しの準備中だという。

(文・佐々木栄蔵)

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