世界のビッグレース、フランスの凱旋門賞を視野に置くウオッカ、メイショウサムソンの1、2番人気に代わって、第48代の春のグランプリホースに輝いたのは、3番人気のアドマイヤムーンだった。
岩田騎手はJRA移籍後初のGI制覇で、GIレースの常連・松田博師も初の宝塚記念制覇。意外(?)なヒーロー誕生だ。3月のドバイデューティーフリーで海外GI制覇を果たしているムーンが、国内で敗戦続きだったのも不思議な気がする。昨年は皐月賞4着、ダービー7着、秋の天皇賞3着。国内GIではことごとくツキから見放されていた。
この日も、前半は中団を進むメイショウサムソンのすぐ後ろ。結果的には絶好の位置取りが、松田博師は「もう少し前で競馬をするはずだった。あきらめたね」と、またまた敗戦を覚悟した。
ところが、ジョッキーは違った。「前半は馬なりで無理をしないように。道中の手応えは十分だった」と。サムソンが3-4コーナーでスパートすると、ひと呼吸置いて差を詰めた。ゴール前1Fから怒とうの末脚を駆使し、サムソンに競り勝ってみせた。
「早めに抜けるとやめてしまうところがあると聞いていた。だから、最後まで必死でした」と岩田騎手。直線半ばでは相手を探すかのように、ジョッキーが周囲を見渡す仕草も見られた。師は「まさかの展開。これまで何回もチャンスがあって勝てなかった。不思議やなあ」とつぶやいた。
本田騎手が調教師に転向後のムーンの主戦は武豊騎手。それがアドマイヤとの決裂で、岩田騎手にコンビが回ってきた。菊花賞をデルタブルースで勝ったのは地方騎手時代。今年、リーディング独走を続ける岩田騎手にとっても価値ある、大きな1勝になった。
悪夢を吹き飛ばしたムーンの次の目標は秋の天皇賞。ウオッカ、サムソンがいない秋競馬の主役は、コレで決まった。