他球団のスカウトが「そういえば」といった口調で、こう説明する。
「立教大学戦(5月2日)に巨人スカウトO氏が来ていました。かなり熱心にメモを取っていましたね」
同日の早大先発投手は、福井。9回こそ大石達也(4年生)にマウンドを譲ったが、8回被安打3、無四球無失点の好投でネット裏のスカウトマンたちを唸らせた。
しかし、福井といえば、08年のドラフト会議(高校生ドラフト)で4巡目指名を受けたが、「甲子園で優勝したのに下位指名とは…。プロでやっていく自信がない」と、入団を辞退。1年の浪人生活を経て早大に進んだ。プロ志望も強かったため、この指名辞退はさまざまな憶測も呼んだが、今日の成長を見ると、早大進学は決して間違いではなかったようではある。
「巨人サイドも無理に交渉を長引かせませんでした。ドラフトに関する不正等々が社会問題にされていた時期なので、巨人側が福井本人の意志を尊重したんです。『円満決裂』と言っていい」
当時を知る高校関係者の1人がそう言う。
福井側も巨人に悪い印象は持っていないとのことで、巨人が正式に指名承諾書を求めれば「サインする」との見方が支配的だが、こんな情報も飛び交っている。
「早大の應武篤良監督は巨人のことを快く思っていません。早大中退投手の尾藤竜一(08年)を育成枠で獲得した際、『挨拶がなかった』と怒っています。巨人側は『連絡した』と反論していますが…。應武監督が巨人からの書類をどう扱うか?」(前出・同)
その後、「和解した」という話もあるが、「それは表面上のこと」と否定する向きもないわけではない。早大関係者によれば、「應武監督は根に持つタイプではない」とし、「巨人との衝突がたとえ本当でも、野球部員の進路希望に口を挟まない」と力説していたが、福井再指名の障害はそれだけではない。
大石も1位候補と言われているが、同大学には“真打ち”斎藤佑樹が控えている。この早大の屋台骨を3投手の胸中は複雑だ。福井、大石は「斎藤と違う球団に行きたい」ともこぼしているそうだ。対人関係での衝突はない。お互いの実力を認め合ったうえで「比較されたくない」と思っているのだ。
言い換えれば、巨人が福井を再指名したいのであれば、ドラフトの主役・斎藤の1位指名入札から辞退しなければならないが…。
「巨人は球団代表が沢村拓一(中大)を視察するなど他大学投手の偵察にも熱心です。昨年は長野(久義)の1位指名を早々と表明してしまい、菊池雄星の1位入札にも参加できず、ドラフト補強に影響がありました。ギリギリの段階まで1位指名候補を明かさない方が良い」(同)
今年もドラフト会議がテレビで生放送される。主役・斎藤は「12球団OK」とのことだが、今秋のドラフト会議では、史上初の同球団再指名選手が観られるかもしれない。