急がば回れ。堂々と、悠然と立ち居ふるまうアンライバルドの姿を見ながら、友道調教師は古くからの格言をかみしめている。
「この中間は本当に雰囲気がいいね。落ち着きが出てきた。以前はイレ込みがひどくて、京都2歳S(3着)のころは装鞍所から我を失ってどうしようもなかったから」。有り余る闘志をどこへ向けていいか分からず、あちこちに頭をぶつけていたような2歳時を、師は懐かしそうに振り返った。
あれから半年、あくまでもダービーを見据え、焦らなかったから今がある。「2歳Sの後、ラジオNIKKEI杯もパスして放牧に出したのが良かった。あそこでワンクッション入れたことが、この精神状態につながっている」
使えば勝ち負けと思えば、使いたくなるのが人情だ。しかし、この馬だけは何よりダービーを優先した。父は2冠馬ネオユニヴァース、半兄は最少キャリア3戦目でダービーを制したフサイチコンコルド。父母両方から受け継いだDNAがともにダービーを示唆していた。
そんなアンライバルドにとって、皐月賞はまさにうれしい誤算だった。戦前はロジユニヴァース断然ムード。アンライバルドはあくまで脇役に過ぎなかった。だが、中団から素晴らしい瞬発力を発揮した。芝2000メートル1分58秒7の時計も文句なしだった。
「こちらの予想以上だったね。馬がレースのたびに自信をつけて、パドックでも堂々と歩くようになった」。陣営の我慢が素質を導き出した。
デキは絶好。仕上げに不安はまったくない。そして、初めての左回りも、2400メートルも能力をさらに引き出す材料だと断言する。
「ケイコでは左回りもスムーズだし、距離も延びた方がいい。ずっとダービー向きだと思ってここまでやってきた。何より3冠のチャンスがあるのはこの馬だけ。モノにしたい」
師ははっきりと3冠を意識している。2冠の父も、奇跡のダービー馬の兄も菊花賞は惜敗した。まずは父と兄に肩を並べ、その先に広がる夢へ。踏み出す蹄跡にブレはない。
【最終追いVTR】CWで3頭併せを行い、6F77秒5→62秒3→48秒7→36秒1→12秒3(一杯)と破格の時計をマーク。直線では内アドマイヤダーリン(古馬1000万)、外ダノンフィーバー(3歳未勝利)の間に突っ込み、シャープに脚を伸ばしてゴール。2頭を余力十分に1馬身突き放した。2冠奪取へ向け、これ以上ない態勢が整った。