ロシア国民のソ連崩壊による「アイデンティティークライシス」は深刻だった。70年間信じていた共産主義はウソと断定されたのだから、ロシア人は突如「何を信じたらいいか分からない」状態になったのだ。
その心の穴を埋めるべく西側から宗教が進出してきたのだが、その中の1つがオウム真理教だった。オウムは特にラジオを使って盛んに宣伝を行い、有力政治家たちに接近していった。入信者は日本と同じように自宅や金などなけなしの財産を教団に上納させられた。
当時オウムはロシアからカラシニコフ自動小銃や軍用ヘリなどの武器を調達した。こうしてモスクワ支部は布教、教団の武装化の両面で重要拠点となり、信者の数でも海外拠点で最も多くなった。
結局、伝統宗教であるロシア正教やイスラム教、チベット仏教が復活し新興宗教を駆逐していく。プーチン政権は伝統宗教を支援することで、ソ連崩壊後の思想の混乱を終わらせたのである。
麻原彰晃(本名・松本智津夫)代表(当時)が95年に逮捕されると、ロシアでもオウム真理教は禁止された。しかし、一部のロシア人信者たちは活動拠点を求めて海外へと出た。その1つがウクライナ領内にあるクリミア半島の中心都市のシンフェローポリだった。
シンフェローポリでは、ロシア海軍の関係者だった男性信者が98年ごろ、オウム真理教の教義を引き継いだ宗教団体を設立した。教義のほとんどがオウム真理教と同じと捜査当局は見立て、監視下に置いた。
2018年5月、モスクワやサンクトペテルブルクでオウム真理教の布教をしていた疑いで、海軍出身者とは別の男が逮捕されている。
捜査機関の調べによると、この男は日本にいる指導者の指示を受け、10年に宗教グループを設立して、オウム真理教の教えを説きながら勧誘していたという。
他にもオウム真理教関連で摘発される人は後を絶たない。ロシアではまだオウム真理教は生きているのだ。