すさまじい闘争心をどう制御するか。ヴィクトリーの2冠ロードは自分との闘いでもある。
「前走もそうだったけど、今回も相手うんぬんではない」。音無師はそう言ってうなずいた。
東京の2400m。完成途上の3歳馬にとってタフで過酷な舞台だ。それを乗り切り世代の頂点に立つため、皐月賞を制した後、新たな調整法に取り組んできた。
泳いだ。気性が激しく調教が難しいタイプ。実際、皐月賞の1週前は放馬してしまい、カラ馬で坂路を駆け上がる大誤算があった。「キャンターへ下ろす時いつも跳ね上がり思うようにケイコができない」。だからといって加減してばかりでは2冠などおぼつかない。そこで取り入れたのがプール調整だった。
心肺機能の強化=スタミナの増幅はもちろん、プールは精神面のリラックス効果も大きい。またプールに入ると馬の目線が人間より下になるため、人に従う意識が馬に芽生えやすいともいう。
そんな地道な努力の成果が16日の1週前追い切りにも垣間見えた。
出だしはいつものように2度3度と後肢を跳ね上げたが、その後はうまく折り合い800m53秒8→39秒6→26秒7→13秒8。暴れ馬と化した皐月賞1週前とは違った。
「最近では一番まともなケイコができた。プールも取り入れて2400mを乗り切るスタミナもある程度できたと思う」と音無師は言った。
鞍上は田中勝。行きたがるパートナーの気持ちを損ねないよう2角過ぎからじんわりハナへ。平均ペースに持ち込み、後続の末脚を封じる好騎乗が大駆けを呼んだ。
音無師は「皐月賞のペースで逃げては今度はもたない。前に馬を置いて折り合いをつけたい」と注文したが、人馬ともに今の勢いならそれも可能だろう。
昨年のメイショウサムソンに続く2冠へ。誰からも好かれるカッチーだが、実はサムソンの鞍上・石橋守ともしばしば食事に行くほどの仲。先輩に追いつき追い越せ。15年かかったJRA・GI139連敗脱出の後はポンポンと国内外のGIを2連勝…そして、迎える競馬の祭典で最高の喜びが待っている。