この写真は絵葉書になっており、ウラ面にはニューヨークのオーディトリアム(劇場もしくはコンサートサロンのこと)にて展示されたとの記載があるという。
いかがだろうか? 下半身は魚なものの丸い顔に丸い瞳、鋭い牙、爪はあまりに凶暴であり我々がイメージする「優雅に海を泳ぐ美しい女性」のイメージとはあまりにかけ離れている。
これまで山口敏太郎事務所は様々な人魚のミイラと思われる写真を本ミステリー記事にて公開してきたが、ここまで凶暴な顔つきのものは珍しいと言える。
さて、人魚といえば上記のような美しい女性というのが相場であると思いがちだが、これは後年に作られた『人魚姫』などの子供向けの童話からのイメージであり、歴史を紐解いていくと人魚は決して人間に受け入れられてきた存在ではない。
西洋の人魚伝説として有名なドイツの「ローレライ」は舟を水没させる怪物として描かれており、同様にアイルランドの人魚「メロウ」は嵐を呼ぶ恐ろしい化物として船乗りから恐れられていた。
また、日本の人魚伝説も鎌倉時代までは魚の体に人の顔がついた人面魚のようなものがポピュラーであり、人魚の肉を食べると不老不死になるという八百比丘尼(やおびくに)の伝説も肉を食べた女性が長生きしすぎて孤独になるというアンハッピーエンドで締めくくらられる。
このように日本や世界問わず、人魚の伝説は非常にホラーチックな面も多く含まれているのだ。
今回の写真で紹介している「アデンの人魚」もおそらくは猿と魚を組み合わせた模造品と思われるし、1900年代初頭に撮影された絵葉書だと、捕獲したジュゴンに首輪をくくりつけ人間に似せた姿で人魚として剥製にされている。
人間に似せたうえ殺害されたジュゴンの写真は恐らく動物好きな人ならば悲鳴をあげてしまうほどにショッキングな一枚だろう。
我々が愛してやまないメルヘンの住民「人魚」…その裏側では限りない動物たちの犠牲があったことを忘れてはならない。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)