同店はメーンストリートの中央通りから1本奥に入った裏通り沿いにある。この通りはパソコン部品を買い求める人などでいつもごった返しており、何回か通るうち、ひっそりと佇む同店に「おやっ!?」と気づく人が多い。最先端技術を競う街で、ひっそりと日本の伝統文化を守るその姿に感銘を受けたメイドさんが店の前で記念写真を撮っていた。
同店の田中規與子(きよこ)さん(79)は「昔はここで職人がすだれをつくっていたんだけど、40年ぐらい前に千葉・浦安に仕事場を移したんですよ。関東大震災(大正12年)以前は店の前が表通りだったのに、震災後に中央通りができて裏通りになっちゃった、っていう話。時代が変わってクーラーが登場したし、賃貸マンションなんかは釘が打てないからすだれがかけにくくなった。よく頑張っていると言われればそう思うし、そりゃ慎ましい暮らしをしてるわよ(笑)」と話す。
クーラーがなかった時代、店前の縁台には近所の人が集まっておしゃべりしながら夏の夜を涼んだ。「いまよりもっともっと静かで上品な町だった。でも、テレビができてクーラーができて、みんな家にこもるようになっちゃったでしょ。少し寂しいわよね」と規與子さん。秋葉原の雰囲気も随分変わったという。
注文販売のほか店内にはすだれを使った各種商品が並び、外国人観光客がコースターや色紙掛けをお土産に購入していくことも少なくない。「売り上げは別として、うちはしっかりしたものだけを売っています」とそこは自信たっぷり。江戸の職人気質は変わらず守られていた。