古い家で、葬式の時に遺体を見守る部屋として使われる小部屋だ。
ここで眠ると、必ず幽霊に遭遇する。
築60年ほどの家は、怪異に満ちていた。
この部屋は一年中日が当らず、苔むした石垣が窓から見える。
その部屋に私は何か月か住んでいた。
パシ。パシ。
プラスチック破片が割れるようなラップ音も、他の部屋では無視できないほどの大きな音でも、この部屋の物は比較的小さな音だ。
眠っていると。
サク。サク。
ネコが布団を踏む気配。
ネコとともに育った私が間違えるはずがない。
枕元のライトをつけて周囲を見回す。
ネコがいるのは不思議ではない。当時三匹のネコを飼っていた。
ネコが来ているのなら、一緒に寝ようと思って探したのだがいない。
ふすまはぴったり閉まっている。ネコが入ってきた様子も、出て行った様子もない。
電気を消して布団をかぶるたびに、ネコの気配がする。
何のいたずらをするわけでもない。
ラップ音は鳴っていたが、他の部屋に比べれば静かすぎるほどの、怪異のない部屋だった。
後日母に「あの部屋ネコの幽霊が出るよ」と言うと、母はなんの驚きも見せずに言った。
「あの部屋でネコをたくさん看取ったから、いても不思議はないわよ」
母は交通事故で瀕死のネコや、虐待されて道で行き倒れていたネコを拾ってきては、看取っていたのだ。
そのネコたちは、今も部屋に残り、住んでいる。
不思議なことに、生きているネコはその部屋には近寄ることがない。
一つ気がかりなことがある。
祖母がその部屋に新興宗教の神棚を置いたのだ。
その神棚が、逝ったネコたちの眠りを邪魔していないことを祈る。
(立花花月 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou