ストーカーという言葉に目新しさはないが、そのストーカーが同僚ホステスで、しかも店を変えても変えてもついて来る、となると相当に不気味な話ではないだろうか。
国分寺の小箱のキャバクラ『R』に“現在潜伏中”と語るのは、紗代子さん(仮名・28歳)。
高校卒業後、渋谷のギャルキャバに就職。その後移った新宿のニュークラブで、「クラブったって、所詮は時間制、お水を極めるなら銀座の高級会員制クラブじゃなきゃダメだ」と、プロ意識に目覚めた。そこから全身に修整を重ねながら、地道にお水街道を徒歩で進み、ようやく銀座に辿りついたという叩き上げ。
そんな彼女が国分寺に隠遁するに至った経緯は、今から6年前、とある家出娘の面倒を見たことが発端だった。
「当時の彼氏が渋谷でスカウトしてたんですけど、その彼が、先輩から無理やり押付けられたと言って、雫(しずく=仮名)を連れて来たんです」
当時センター街をウロつく家出娘たちの多くは、スカウトの間を一宿一飯でヤラれながら渡り歩くヤドカリスタイルを確立していた。
しかし、そんなヤドカリも2周、3周とループし始めると、邪魔にされ遠くリリースされることも。それが雫だった。
「境遇が悲惨で、彼も同情したのね。私のとこでちょっと預かってくれって。面倒だけど、まあ1週間くらいならいいかと思って…」
しかし、暮らしてみると案外気立てもいい。マメに家事もこなす。やがて1週間が1か月になり、1か月が2か月…同居生活は1年近く続いた。「性病の治療受けさせたりしてあげてるうちに情が湧いて。すっかり仲良くなっちゃった。もうすぐ18になるっていうから、うちの店で働いて見る? ってことになって」
雫はめきめきと頭角を現し、あっという間にナンバークラスに昇格した。しかし、その頃から状況に変化の兆しが…。
「出勤時の服装も化粧も話題も営業方法も、全て私ソックリに真似をする。お手本が私だからしょうがないと思っていたけど、度が過ぎてる」
私服の趣味から、食べ物の好み、読む雑誌、髪型、ネイル…全てを真似る。だんだん鬱陶しくなって来た。店でも自分ソックリなホステスがいるというのも都合が悪い。
「私に合わせなくてもいいんだよと言えば、“紗代姉は私の憧れなんです”ってニコニコして悪意は全くない。一緒に暮らしてるせいもあるだろうって、同居は解消したんですけど…」
<整形しても同じようにして再び現われる>
それでも真似っこは収まらなかったそう。
「しゃべり方や仕草までソックリで。こうなると、どっちが真似て、どっちが本物か分からない。“一卵性ホステス”なんて皮肉られるのも嫌で」
ちょうどその頃、スカウトの元カレから、六本木のお店を紹介されていた紗代子さんは退店を決意。次の店に移る前にアチコチ整形を施した。
さらなる美しさを手に入れ、新しい店でも順調に成績を伸ばしていた彼女だったが、そこに雫が現れた。
「ケンカ別れじゃないし、付き合いはあった。でも、まさかまた同じ店に来るなんて」
“また紗代姉と一緒に働ける”と、ウキウキした様子の雫。なぜか胸は以前より大きくなり、顔もシャープに小顔になっていた。「整形した私にソックリ。雫も同じ部分をいじっていたんです。その時、この子はオカシイと始めて思った」
ソックリ女出現。何とか追いつかれないよう必死でメイクや“戦闘服”を研究し、顔の修整も細かく加えていったが、それも全て“真似”という形であっさり雫に飲み込まれた。
「私がキレイになればなるほど、まるまる盗まれる。しかも雫の方が私より5歳も若い、太刀打ちできません」
やがて赤坂のクラブに移ったが、しばらくするとそこにも雫が現れた。「完全に縁を切ったつもりだったのに。付きまとうなって言っても、憧れてるとか好きだとか…一方的なんです」
幸い、その時は既に銀座に足がかりを見つけていた。早々に逃亡を図った。「銀座時代は1年半続きました。もう雫のことなんか忘れてましたね。でもやっぱり」そこにも現れた。
「真似されるのは我慢できる。ただあの子に執着されているの恐い、私の努力をどんどん吸収されるみたいで…」
どうやっても雫の踏み石になるだけ。戦意喪失した紗代子さんは銀座を去った。
「ずっと雫は私を追いかける形でステップアップして来た。それが、都落ちしてまで私を追い掛けて来るかどうか、確かめるたい気もするんです」
現れたらどうするか。紗代子さん本人にも分からない。
*写真は本文とは関係ありません