「想像していたよりはるかに厳しい」
と原発作業員の桜井正雄さん(仮名)は言う。
作業員宿舎が多いのは、浜通り南部のいわき市内とその周辺。共同生活を嫌がって、アパートを借りている者もいる。ほとんどが自分の車を持っているので、宿舎、アパートから直接現場へ行きたいところだが、しかし決まりがあって、それができないんだ。
まず、いわき市の北にあるJヴィレッジ(広野町・楢葉町)に集まり、そこからマイクロバスか大型バスで現場へ向かう。自宅通勤の作業員も同じだね。
バスを用意するのは、元請けの大手ゼネコン。しかし、大成建設の下請けや孫請けの作業員が鹿島のバスに相乗りするのはご法度。だから元請けがそれぞれバスを用意しなきゃならない。
バスがJヴィレッジを出発したら、そのまますんなり現場へ直行できるかというと、そうじゃない。事故原発は双葉町、大熊町にまたがり、その南に富岡町があって、そこを通る国道6号線に検問所があるんだ。
そこで東京電力の関係者10人近くが旗を振って待ち構えている。そこには警察官の詰所もあって、常時、パトカーが4〜5台待機している。作業員を装った不審者が紛れ込んでいないかどうかチェックを受けて、やっと現場へ向かって走り出す。毎日がその繰り返しで、早番は朝5時から、遅番は昼から、そして夕方出勤の者もいる。
現場に着くと、今度は警備員詰所があって、そこで顔写真入りの入域カードをもらわないと敷地内に入れない。入域カードの受取りは、それぞれが首にぶら下げた身分証明カードと交換する決まりになっている。
実は、6月中旬、こんな事件があってね。原発警備員(いわき市在住=24)が金属バットでブン殴られ、送り出していた人材派遣会社の役員(36)ら2人が監禁、傷害容疑で逮捕された。
警備員が「仕事を辞めたい」と言い出したら、
「この野郎、フザけんな!」
となったらしい。その警備員は茨城県古河市で監禁され、いわき市まで車で運ばれた。その間にバットで殴られたってわけ。
警備員は、俺たちみたいに“あれやれ、これやれ”と奴隷みたいにこき使われるわけじゃないが、やはり放射能が怖いんだよ。だから職場を変えたくなるのは当然だ。それなのに、「辞めたい」と言ったばかりにブン殴られるなんて、気の毒でならんよ。