「西松建設巨額献金事件をめぐる敵失で政権支持率が上昇した今こそが絶好の解散機でしょう。しかしながら麻生首相は一向に動く気配がなく、再びチャンスを逸する可能性が高まっています。昨秋、ぐずぐずと解散を遅らせるうちに手の打ちようがなくなったことを忘れたのでしょうか。あきれるほど学習能力がありません」(永田町関係者)
最近の首相動静をめぐる報道では弾けるような笑顔が目立つ。漢字誤読を連発し、難しい顔ばかりが新聞紙面を飾ったころとは別人のようなにこやかさだ。なにしろ一時期は支持率一ケタ台目前だったのに、いまや20%台まで盛り返した。西松建設事件で公設秘書が逮捕・起訴されて以降、シブい表情になった民主党の小沢一郎代表(66)とは対照的で、だれの目にも笑いが止まらない様子が見てとれる。
それならば、さっさと解散すればいいのに…というのはどうやら素人考えらしい。
全国紙の政治部記者は「首相はまだまだ支持率は上昇すると様子見しているフシがある。もうひとつ、26日の名古屋市長選で民主党推薦の河村たかし氏の優勢が伝えられていることが引っかかっているようだ」と指摘する。
なぜ、それほどまでに一地方都市の首長選挙を気にかけるのか。
西松建設事件を受けた千葉、秋田両県知事選で民主党系候補は惨敗。そもそもの選挙情勢が民主党系候補に不利だったこともあるが、事件が足を引っ張ったことは否めない。小沢氏や民主党幹部は求心力回復のため、名古屋市長選で抜群の知名度を誇る河村氏勝利に望みをつないでいる。むしろ、追い詰められているのは民主党であり、首相が気にするのは過剰反応といっていい。
その背景を解説するのは、前出の全国紙政治部記者。
「衆院議員を5期務めた河村氏は、バラエティー色の強いテレビ討論番組などでおなじみ。独特の名古屋弁で好き勝手なことを言うからテレビ的に見栄えがいい。実は河村氏は筋金入りのアンチ自民党で、その政治活動は一貫して自民の逆を行っている。麻生首相は、河村氏が名古屋弁で政権批判を交えた勝利宣言をすることを恐れている。名古屋弁の首相批判はインパクト絶大だ」
一流ホテルのバー通い批判や漢字誤読騒動があってから、首相は報道に端を発する世論形成に敏感になっているとされる。ヘタに解散を急ぎ、名古屋市長選で風向きが変わってしまえばアウト。仕切り直すわけにもいかないため、極端に警戒しているというのだ。
さらに、首相にとって名古屋は“鬼門”にもあたる。昨年9月、自民党総裁選候補としてJR名古屋駅前でマイクを握り、愛知県安城、岡崎市などで死者3人を出したゲリラ豪雨について「安城や岡崎だったからいいけど、名古屋で同じことが起きたらこの辺全部洪水よ」とやった。激怒した両市は麻生氏あてに抗議文を送り、謝罪文を書くハメになったという苦い思い出がある。
前出の永田町関係者は「理由はどうであれ、首相はまだまだ解散したくないんでしょう。むしろ先送りする理由を探している感すらあります」と話す。国民はまだまだ振り回されそうである。