ある夜、京都の貴船神社にお参りするひとりの女性がいた。女は自分を捨てた旦那に呪いをかけるため毎夜毎夜、丑の刻に貴船神社へやって来ては、頭に鉄輪(五徳)をかぶり、呪いの願かけをしていた。願かけから6日目、女性は力尽き自宅近くの井戸で死亡してしまった。やがてその井戸は「鉄輪の井戸」と呼ばれるようになった。井戸の水を飲ませると、どんな縁でも切られるという伝説が生まれた。
ネガティブな言い伝えがあるスポットであるせいか現在、井戸は金網に覆われ水をくむことができない状態になっている。また、参拝する際にもルールが事細かに決められている。だが、中にはうまいことを考える人もいるもので、この井戸にミネラルウォーターを奉り、「呪詛の成分」が十分に入ったところで持ち帰り、縁を切りたい男や夫に飲ませる女性もいるというのだ。
筆者が以前、同地を取材したときには露骨にミネラルウォーターが供えられていた。女性の怖さに震えたものである。
なお、能などで演じられる「鉄輪」では、神の力を借りて女性が醜い鬼に変身し、それを安倍晴明が等身大の人形を作って追い払うというストーリーになっている。この人形とは、もちろん現在神社などで作ってもらえるヒトガタだ。本人の息を吹きかけることで、分身にして魔物にこちらを襲わせるのだ。言ってみれば、パーマンに出てくるコピーロボットのようなものだろう。
いずれにせよ、腐れ縁を切りたがる女性には人気の呪いスポットではある。
※画像は鉄輪伝説の元になった橋姫(鳥山石燕『今昔画図続百鬼』より)
(山口敏太郎)