先日、見覚えのない女性の名前で封書が届いていた。誰だろう? と思って、封書を開けると、上記のようなことが書いてありました。
さて、これはいったい誰だったのか? と、数分考えると、K嬢であることが分かったのです。本名で書いてあるから誰なのか分からないのですが、住所を見ていて、そこに住んでいる人で、連絡を頻繁に取っているのは、K嬢しか思いつかなかったのです。
文面にある「この前」というのは、先日、K嬢の勤める店に行ったことを指すのでしょう。それにしても、どうして手紙だったのでしょうか。
最近のキャバクラの営業の主な方法はメールです。メールで近況を伝えるとともに、次の予定を約束させるのです。この原稿を書いていると、ちょうど、ガールズバーに勤務するY嬢から、「今夜は出勤」といった内容のメールが届きます。なんともストレートな営業メールでしょうか。
Y嬢の勤めるガールズバーは、風営法上は、キャバクラ登録している。そのため、「名ばかりのガールズバー」で、実態はキャバクラ。そのため、指名すれば、接待をしてくれるのです。ガールズバーのような「接客」なのか、キャバクラのような「接待」なのかで、ムードは違ってきます。
「接客」がほとんどのガールズバーで、「接待」されるには「指名」が必要となります。キャバクラだと「接待」は普通すぎる行為ですが、この店では、指名して「接待」されると、なぜかお得な感じがしてしまう。そんな絶妙な心理を利用しているのが、Y嬢の営業メールです。
しかし、普通のキャバクラで、「接待」の時間が長く、独占状態にするには指名は必要です。しかし、人気のある嬢の場合であれば、同じ時間帯に指名がかぶってしまう。「接待」の価値は落ちてしまう。そこで、「同伴」することで、たとえ「接待」の時間が短くても、「同判時間」が長ければ、それはそれで「得」なのかもしれません。
しかし、同じキャバ嬢と長年付き合っていると、同伴でさえ、それほど希少価値がなくなってきます。新鮮さがありません。恋愛的な要素が絡んで、徐々に距離が近づいて来た、という感覚もありません。つまり、「友達営業」のキャバ嬢とのやりとりでは、気軽さはあるものの、新鮮さなどは感じられないのです。それが続けば、店から、あるいは、その嬢から遠のくことになります。
K嬢にも、そうした危機感があったのかはわかりません。しかし、意図的ではないにせよ、手紙による営業は、それまでのメール営業とは違って、新鮮さを増しました。しかも本名と住所が書いてあるとは、よりプライバーと感覚になります。
ただ、本名と住所のある手紙となれば、こちらとしては壁が一枚なくなった、感覚となりますが、ストーカーの危険も出てきます。キャバクラ嬢のみなさん、実行するとすれば、気をつけてください。
そういえば、このK嬢に「ストーカーしちゃうぞ」と言ったことがあります。その度にK嬢は「どうぞ」と言ってきます。そして、「くんくん、いつも言っているけど、してないじゃん」と言われてしまいます。もしかして、「口で言っているだけじゃなく、ストーカーしてみなさい」という、挑戦状なのかもしれません。いや、そんな妄想はしてはいけないです。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
【記事提供】キャフー http://www.kyahoo.jp/