そのWBCナインとは、ロエル・サントス外野手(29)。対侍ジャパン戦でもスタメン出場し、“走りながら打つ”独自の打撃フォームでファンを驚かせた選手である。現時点ではキューバ国内の共産党機関紙が報じたこと以上の話は出ていない。また、千葉ロッテの戦力状況を考えれば、補強するのなら、デスパイネの抜けた穴を埋める大砲タイプだろう。球団経営幹部が一部メディアに対し、否定も肯定もしない曖昧なコメントを発していたが、1番タイプの俊足外野手は、むしろ有り余っている。このチグハグな移籍話には『ウラ』がありそうだ。
「キューバの(野球の)国内事情も影響していると思います。野球強豪国としての再建は急がなければなりませんので」
WBC準決勝、決勝を現地取材した米国人ライターがそう言う。
そもそも、今回のキューバ代表だが、20歳以下のナショナルチームで活躍した選手はほとんど招集されなかった。いや、招集したくてもその大半は亡命してしまったのだ。国内リーグを見ても、衰退は明らかだという。前出の米国人ライターはもとより、WBCの試合を解説した海外野球通たちも口にしていたが、豪腕剛球の投手、フルスイングのパワーヒッターはほとんど見られなくなってしまったそうだ。
「投手は130キロ台後半の直球、変化球主体の技巧派が目立つようになりました。バッターにしても、そうです。国内リーグとはいえ、かつては4割バッターが何人もいたのに、現在は打率、本塁打、打点のタイトル争いのレベルも落ち、もう国内にはメジャーリーグで通用する選手はほとんど残っていません」(前出・米国人ライター)
こうした国内リーグのレベルダウンを受け、キューバは働き盛りの年齢にある主力選手に海外経験を積ませ、次の国際大会に備えたいという。
「ロッテ入りが噂されたサントスは29歳。次のWBCでは選手としてではなく、指導者として日本のスモールベースボールを学び、キューバに持ちかえってほしいと考えているのでしょう」(前出・同)
指導者と言えば、前大会のWBCだが、ビクトル・メサ監督(当時)は試合中でも怒鳴っていた。集中力の途切れたプレー、不注意から招いたミスに対して怒っていたのだが、今大会のカルロス・マルティ監督にはそういった言動は見られなかった。今大会ではそのビクトル・メサ元監督の息子も招集されていた。選手を緊張させないため、喜怒哀楽を表に出さなかったのかもしれない。だが、ビクトル・メサ・ジュニアの目に父親と真逆の采配を執ったマルティ監督や、衰退した代表チームはどう映ったのだろうか。
「キューバの野球選手は肩書では国家公務員なので、交渉の窓口はキューバ政府になっています。かつて、巨人がセペダを獲得したとき、キューバ政府側から『強い要請』がありました。長くキューバ野球界を牽引してきたセペダのメンツを汲んでほしいというもので、巨人は将来のパイプ作りと捉え、獲得に踏み切りました」(NPB関係者)
今回のサントスの移籍話にも、そんなキューバ政府の事情も含まれているのではないだろうか。
※ロエル・サントス外野手の生年月日については、1987年生まれと表記していない野球名鑑もありました。本サイトは「1987年5月生まれ」と記されたWBC出場登録選手名簿を参考にいたしました。