CLOSE
トップ > 社会 > 幻のスクープ… 統合撤回ラッシュに潜む“生煮えリーク”の罪と罰

幻のスクープ… 統合撤回ラッシュに潜む“生煮えリーク”の罪と罰

 昨年暮れ、日本経済新聞がスクープした出光興産による昭和シェル買収が怪しい雲行きになってきた。出光が5000億円超を投じて昭和シェルに株式の公開買い付け(TOB)を行うというシナリオは、確かに華々しい“打ち上げ花火”だったが、3月末に就任した昭和シェルの亀岡剛社長は記者会見で「交渉は資産評価にさえ入っていない」と言い切ったのだ。

 統合交渉がサッパリ進んでいないことに業を煮やしたのか、インターネットの掲示板には「出光はさっさと昭和シェルを買えよ!」など、ヤジのような書き込みが飛び交っている。
 「統合シナリオは業界再編に積極的な経済産業省が描いた。ところが生煮えの段階で日経にリークしたようで、交渉が表面化したのを機に双方から『かえって協議が難しくなった』とのボヤキさえ聞かれる。今後、経産省が強力なリーダーシップを発揮して正面突破を図る可能性はありますが、市場筋は『日経による“幻のスクープ”にならなければいいが』と囁き合っています」(地場証券役員)

 関係者による功を焦った生煮え段階でのリーク(発表)が頓挫した例は過去にもある。好例が2011年8月、これまた日経が1面トップで大々的に報じた日立製作所と三菱重工業の経営統合だ。両社は統合に向けた協議を始めることで合意、'13年春に新会社を設立する方針とされ、メディア各社が追随した。ご丁寧にも、日立の中西宏社長(当時、現会長)は自宅へ押し掛けた報道陣を前に「夕方発表しますから」と統合に向け自信満々だった。
 ところが、後に“世紀の大誤報”と化したのだから皮肉なものだ。
 「日立は統合に前向きでしたが、規模で見劣る三菱重工には『日立に呑み込まれる』との危機感が強かった。重工だけじゃない。三菱グループには御三家(銀行、商社、重工)の一角が日立の軍門に下ることへの抵抗が根強い。統合をリークしたとされる日立サイドには既成事実を作って一気に外堀を埋めようとの魂胆があったようです」(情報筋)

 合併・統合には大株主や主力銀行、企業グループへの事前の根回しが欠かせない。旧三菱財閥の主力企業である重工の場合はなおさらだ。実はこの両社、昨年2月に火力発電事業を統合している。前出の情報筋が苦笑する。
 「派手にぶち上げた統合のアドバルーンを撤回すれば、経営責任が問われる。そこで火力発電だけに絞って統合のアリバイ工作に走ったのではないか、と酷評する向きが少なくなかった。名だたるエリートぞろいとあって、その意味では知恵者集団の面目躍如でした」

 双方が統合では基本的に合意しながら、統合(合併)比率や本社所在地、社長、取締役の数、社名など細部で意思疎通を欠いたことが破談に直結するケースが少なくない。記憶に新しいのは、これまた日経が'09年7月に大スクープした、キリンHDとサントリーHDの統合だ。
 一時は「相思相愛の関係」といわれた両社が、なぜ決裂したのか。関係者は辛らつに語る。
 「最大の理由は統合比率で折り合わなかったことです。両社が統合に合意したにもかかわらず、比率の交渉に入ったのが発表から4カ月も後のこと。最初に重要事項を決めず、懸案を先送りしたから足元をすくわれたのです」

 もっと深刻なのが、三井造船との統合を推進した社長が電撃的に解任された川崎重工業のケースだ。この統合をスクープしたのも、例によって日経だった('13年4月)。両社は全面否定したが、一方で統合に反対する川崎重工の役員が社長解任のクーデターを敢行したのである。統合に淡い期待を抱き、まんまとはしごを外された三井造船のメンツは丸つぶれだ。

 事ほどさように統合破談には《功を焦って生煮え段階でのリーク》、《大株主、銀行、企業グループへの根回し不足》、《統合比率やトップ人事など双方が意思疎通に欠ける》−−の大きく3点があるが、M&Aに精通した証券マンでさえ「不可解」と舌を巻くのが高島屋と阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリングのケースだ。両社は'08年に経営統合を前提に資本・業務提携した。ところが2年後に「統合比率や人事、店舗戦略などで溝が埋まらない」として統合を断念した。
 その両社が今年3月末、双方の株式保有比率を低下させながらも食品や衣料品分野で提携関係を強化すると発表したのだ。
 「一歩前進か一歩後退か極めてわかりにくいが、未練がましいというのか、永別までは踏み込めない。これで提携強化がうまく運べば、統合シナリオの復活があり得るとの虫のいい二方面作戦ですよ」(経済記者)

 同床異夢が破談含みなのは、人も企業も同じである。

社会→

 

特集

関連ニュース

ピックアップ

新着ニュース→

もっと見る→

社会→

もっと見る→

注目タグ