大型連休明けの5月7日、日本野球機構(NPB)の理事会と12球団代表者による実行委員会が開かれた。プロ野球興行の発展、問題点などを整理するための会合である。そこで興味深い報告がされた。
今季、1試合あたりの平均時間が増えているという。3時間11分で、昨年4月末時点の3時間08分を上回っているので、各球団とも時間短縮の努力をしていくというのだ。
わずか3分ではあるが、12球団の出席者は「このままではいけない」と思ったそうだ。某球団の出席者がその理由を教えてくれた。
「試合時間が長くなるのはよろしくありません。まず、試合を中継するテレビ局が嫌がるんです。野球はサッカーと違って、試合時間が読めません。五輪の公式競技から外された理由には『テレビ中継がやりにくい競技』と思われた部分もあります」
また、ファンサービスにも影響が出かねないという。
「グラウンド整備をするため、5回、あるいは7回あたりで試合が中断しますよね。その中断している時間帯を使ったパフォーマンス、始球式などのイベントにも影響しかねません。短縮、取りやめを検討することになったら…」
しかし、試合時間が延びるのは予想できたのではないだろうか。NPBはメジャーリーグにならい、昨年からビデオ映像によるリプレー検証制度を導入した。リクエスト制度の名称で、「アウト、セーフ」の際どいタイミング、本塁打かファールかの微妙な判定などについて、各チームとも1試合2回ずつリプレー検証を求めることができるようになった。
一方のチームが際どい判定を巡ってリプレー検証を求めれば、審判団はいったんグラウンドを出て映像を確認する。その間は中断するのだから、試合時間が長くなるのも当然だ。
こんな試合もあった。5月4日、マツダスタシアムで行われた対巨人戦だった。試合序盤、打者走者・菊池涼介の一塁ベースのオーバーランに対する判定に広島・緒方孝市監督(50)がキレた。リプレー検証が行われ、アウトの判定も変わらず、緒方監督は退場処分となってしまった。
その代理指揮を執った高信二ヘッドコーチ(52)が、したたかな一面を見せている。3回表の巨人の攻撃中、4番・岡本和真の打球が遊撃手の前に転がった。完全な打ち損じだったが、打球が緩く、一塁送球はセーフ。そこで高ヘッドコーチはこの試合、2度目のリクエストを審判団に要求した。暫し、中断の後、審判団がグラウンドに帰ってきて、「一塁送球、アウト」と判定を覆した。
「広島の先発・ジョンソンはこのとき、『セーフ』のコールを聞き、膝をつくほどガックリしていました。高ヘッドコーチのリクエストがジョンソンを生き返らせ、広島サイドに試合の主導権を引き寄せました」(スポーツ紙記者)
判定が覆ったらカウントされないが、リクエストを要求できるのは、1試合で2回まで。退場につながった1回目のことがあるだけに、2度目の要求には勇気がいる。まして、まだ3イニングである。
「高ヘッドコーチの狙いは、判定を覆すことよりも巨人に傾きかけた流れを『ビデオ検証』によって止めることにあったのでは」(プロ野球解説者)
リクエストは試合の流れを止める心理戦、駆け引きの道具になっているようだ。監督に「試合を止める正当な権限」を与えた以上、試合時間もおのずと長くなってしまうのだ。
18年シーズンを終了した時点で12球団の「1試合平均時間」は、3時間13分。リクエスト制度のなかった17年は3時間08分だ。NPB硬式ホームページによれば、5月12日時点での1試合平均は3時間12分。プロ野球実行委員会が開かれた5日前よりも「1分」だけ縮まっている。
手っ取り早く、試合時間を短くする方法がある。高校野球のように攻守交代時に走ることだ。「試合時間を短くしろ」と言いすぎると、プロ野球にしかない心理戦の面白さを喪失させてしまうのではだろうか。
(スポーツライター・飯山満)