4月21日、仙台育英高校のグラウンドで、対大船渡の練習試合が行われた。お目当ては最速163キロの剛速球を投げる佐々木朗希投手だ。「今すぐ、プロ野球に入っても通用する」「メジャーでもやっていける」と高評価を得ており、今秋のプロ野球ドラフト会議で主役になるのは必須。一部報道によれば、「日米20球団以上のスカウトが試合開始3時間前から待ち構えていた」とのこと。その評価の高さを再認識させられた。
この異常なフィーバーぶりは日本のプロ野球の在り方にも影響してきそうだ。
まず、メジャーリーグのスカウトが視察に現れたことに、こんな見方もある。
「基本的に、日本高等学校野球連盟(高野連)は卒業後に野球を続けるための進路選択として、いきなりのメジャーリーグ挑戦(海外プロ組織)について『芳しくない』との見解を示しています。高野連の権限で完全に禁止することはできませんが」(関東圏私立校の指導者)
それでもメジャーのスカウトが地方の、それも、練習試合にまで足を運ぶ目的は、お目当ての選手の「将来のメジャーリーグ挑戦に備えてのデータ収集」だという。ア・リーグ中地区のスカウトがこう言う。
「菊池雄星の調査が実ったのは、18−19年オフになってから。花巻東高校時代からデータを集め、その調査書が一部とはいえ、交渉の場で活用されたのは事実です。あと、米球界は『投手の投げすぎ』『登板過多』を嫌います。高校時代にどれだけ投げてきたかも知っておきたいので」
「情」「縁」を気にする日本人の気質に期待している部分もあるようだ。スカウトの所属球団をさして、「一番最初に自分を見てくれた」と縁を口にする日本人選手も少なくないからだ。
また、スカウトの中には「日本のプロ野球を蹴ってでも、メジャーリーグ挑戦」という、淡い期待も抱く声も聞かれた。佐々木投手の進路に関してはまだ詳しい情報が出ていない。争奪戦が本格化するのは夏の甲子園大会からだろう。
「東京五輪に佐々木投手を出場させることも考えなければ…」(在京球団スカウト)
東京五輪を口に出すNPBスカウトもいた。今オフ、DeNA・筒香、ソフトバンク・千賀、広島・菊池ら日本野球代表・侍ジャパンの主力選手たちがポスティングシステムを使って、米球界に挑戦するという。そうなると、東京五輪を戦う侍ジャパンの戦力ダウンは避けられない。戦力ダウン以上に懸念されるのが人気。普段野球にあまり興味のない国民にも侍ジャパンを応援してもらうために甲子園のヒーローや、ドラフト時で有名になった高校・大学の球児も入れ、若手中心のチームに変える案もあるそうだ。
東京五輪の話まで出ると、まだ実感がないが、この佐々木投手を巡る争奪戦は別の意味でも物議をかもしそうだ。
「佐々木投手の指名に成功した日本のプロ野球チームは、前評判通りなら、自動的に、何もしなくても『プラス10勝以上』という計算ができます。ドラフトは大事な戦力補強の機会です。今のドラフト会議は1位指名選手が重複したら、抽選となります。つまり、球団が選手を育てなくても、クジ運次第で強くなれる、と…」(球界関係者)
佐々木投手の心象を良くしようと、3時間以上も前から待機していたプロ野球スカウトもいる。その努力もクジ運次第で全て無駄になる。10年に一人と称される逸材が出現するたびに、スカウトたちはドラフトのルールに泣かされ、報われないことのほうが多い。戦力の均衡化を図ることは大切だが、海外への挑戦に難グセをつけ、国内でもクジ運次第とする現状も考え直したほうがよさそうだ。
(スポーツライター・飯山満)