なべ そうでしょう。でもね、やくざに対して十把一絡げの概念で差別してしまっている今の世の中の人々に、ぜひ読んでいただきたいと、やさしく面白く書きました。一般の人にとって、やくざは縁のない存在だと決めつけずに、とにかく読んでみて下さいな。読んで下さったある大銀行の元頭取さんや、高名な方々からもお誉めの言葉をいただいているんです。
−−昔から芸能は興行を通して、やくざともつながりがあったと伝え聞きますし、実際にそういう報道もされてきました。
なべ 芸能人もやくざも“DNA”が一緒なんでしょうね。稼業としては、物質文明の余剰の上に派生した歴史を持っていましてね。余りに豊かになると、人間は少し勘違いしてしまうのです。やくざも堅気も同じです。分相応ではなかったバブル時代は、大きな波で洗い直されましたからね。
やはり大切な生き方って「一道に生きる」ってことでしょう。「役者は役者」で、「やくざはやくざ」でってことです。その基本は「我慢」なんです。
−−役者でも芸能人でも「我慢」が基本ということですが、「一道に生きる」という生き方以外に、著名な親分たちに共通しているものはありますか?
なべ 今の時代は、直接会ったり食事をしたりなどと、お上に逆らうようなことをする芸能人はおりません。やくざの人々だって世の中の風潮に反して、勝手に生きるなどといったことはないのです。やはり、身を律しておりますね。
体に一本、律するものを筋立てているのが筋者といわれる本物のやくざなわけで、それがそうできるようにするのが修業なんですね。私たちでもやくざでも、良い人に接して学んでいくのが一番大事でしょうね。
−−そういったやくざの方から、大御所の芸能人まで名だたる方々についても書かれている本書ですが、そういった時代を生きた人生について振り返ると、どんなものでしたか?
なべ 私の人生で、この75歳まで悔やむことなど一つもありません。むしろ後ろを振り返るより、これから先の毎日にワクワクします。やっぱり明日に向かう原動力は「希望」です。その明かりに向かって一本道歩きますから。
(聞き手:本多カツヒロ)
なべおさみ
1939年、東京生まれ。明治大学卒業後の'64年『シャボン玉ホリデー』でデビュー。その後、多くのラジオ、テレビ、舞台、映画などで活躍。