「この仕事をしていると客から手を握られる、太ももの上に手を置かれる、というような事はよくありますね」
美波は客との触れ合うことにあまり抵抗がないという。胸などを触れようとする客に対してはさすがに拒否する姿勢を見せたが、客から手を握られるぐらいはなんとも思わなかった。しかしその行為から思わぬ不運を招くことになってしまう。
「常連さんで、いつも手が汗でベタベタの人がいたんです。でも私は特に気にせず手を握ってました。そしたらある日、私の手の平の小指下くらいにポツっと小さなイボができてて」
その時は特に気にしなかった美波だったが、しばらく放置していると、イボが無数に手の平へ広がっていた。そう、彼女はウイルス性のイボにかかってしまっていたのだ。ウイルス性のイボは通常、軽い接触だけでは感染しないのだが、汗などを通すと人の肌へうつってしまうことがあるのだという。おそらく美波は、イボを持った汗かき客の手を、長時間握っていたため、発症したとみられる。
「それからは何度も何度も病院に通い、液体窒素を手の平に当てる治療をしました。肌は焼けはがれるし、とにかく痛い。本当にとても辛かったです」
ウイルス性イボの一般的な治療は、マイナス196℃の超低温の液体窒素を綿棒などに染み込ませ、患部を低温やけどさせる。そして皮膚表面のウイルスを撃退するのだ。だが一度の治療でウイルスは滅びないので、何度も通院し、麻酔なしで肌をやけどさせる日々が続く。
「かさぶたが剥がれるまで、人に手を見せれる状態じゃありませんでしたね。あと、お客さんにうつしても大変なので、お店は辞めることにしました」
イボ以外では仕事内容や精神的に、なんの問題もなかった美波だが、荒れた手での接客は出来ないと判断し彼女は夜の街を棄てた。現在、手の平のイボは回復。しかし都内で事務員として働き出したため、今のところキャバクラの世界に戻る予定はないという。
(文・佐々木栄蔵)