「3000試合以上に出場したメジャーリーガーは史上8人だけ。敬意に値すると思いますが、米最多のピート・ローズが3562試合に出場していることに関しては、米国ファンもあまり重きを置いていません。勤続年数を尊敬の対象にするのは勤勉な日本人の特徴でしょう」(スポーツライター・飯山満氏)
イチローの無関心も米国では普通のようだ。そして「あっ、そう」の後、イチローは独自の哲学を繰り広げた。
「僕、いくら(年俸を)もらってると思います?」「人がどう思うかは勝手だけど」−−。
ノムさん超えを果たしたこの日の先発投手は田中だった。田中にとって野村氏は恩人であり、今日があるのは、「プロ1年目から一軍マウンドの実戦で鍛えられたから」と言っても過言ではない。当然、ロッカールームには田中もいた。自身がその記録に興味がなくても、先輩として、田中にも配慮した言動を見せるべきではなかったか。
「イチローのノムさん超えは、ビハインドで迎えた最終回に代走で出ただけ。タイ記録も途中出場でした」(前出・現地記者)
消化不良のモヤモヤ感も理解できなくはない。試合に出るだけではなく、チームに貢献し、フル出場しなければならないというのが、彼の哲学なのだろう。
「松井秀喜は記者団がくだらない質問をしても、『カメラの向こうにファンがいる』の意識で、真摯に対応していました。松井は米キャンプで臨時コーチを務めましたが、巨人時代のライバルだった黒田に敬意を表し、新加入の田中が投げる試合をわざわざ観戦するなどの気配りを見せていました。親しみやすさでは松井の方が断然上ですね」(ベテラン記者)
田中は冒頭の出来事があったサブウェイ・シリーズ第3戦に先発し、メジャー初完封勝利。4連敗中だったチームの雰囲気を一変させるなど、価値の高い勝ち星を積み上げている。
「イチローは5月11日の試合で腰を痛めて本調子ではありませんが、レギュラー外野陣も故障者続きのため、今はその代役として重宝されています。しかし首脳陣は『イチローをレギュラーに』とは考えていません。いまだ“放出”の噂がくすぶっています。日の出の勢いの田中と距離が生じるのも無理はないでしょう」(前出・現地記者)
大型補強を行い今シーズンに挑んだヤンキースだが、所属のア・リーグ東地区は上位横一線の状態。思ったほど波に乗れないのは、日本人同士の不穏な空気のせいなのかもしれない。